戦いは新たな局面へ……装備や常備品をしっかりと刷新し、スズランたちは新たな冒険の旅に出る。立ちふさがる竜は、すべてをはこれを排撃、撃滅する。今まで流された人々の血を弔うように、フロワロの花びらを蹴散らして進む。  そして、今また再びエメルからの依頼を受けて、ハントマンたちはゴ=ファ砂漠にきていた。 「うー、暑い! 重い! マーメーシーバー、か弱い乙女の危険が危ないんだぜー?」 「え? どこに可憐なナイトのレディがいるって? ニーナ、もう少し頑張ろう!」 「ぐあー、ばらさなきゃよかった……まあでも、この気安さはイェスだねえ」  マメシバとニーナが、一番体力があるので大荷物を背負ってくれている。同じものをスズランも自ら進んで運ぶと言ったのが出発前。帝国領バ=ホで受けとった時はなんとか運べると思ったが、さすがに息があがって汗が止まらない。  それはどうやら、科学者たちが作ったドラゴン探知機らしい。  プレロマのエメルによって、新たなミッションが発令されていた。  どうやら、全く姿を現さない謎の帝竜がこの付近に巣食っているらしい。 「……砂漠にくるとどうしても、フレイムイーターを思い出しちまうな。あの野郎、次に会ったら必ず」  ふと気付けば、隣に立ったナガミツがスズランの荷物を優しく奪う。  不意に身体が軽くなって、思わずスズランはよろけた。  だが、重い思い探知機を片手で軽々と担ぎつつ、もう片方の手でナガミツはスズランの柳腰を支えてくれた。  この暑い砂漠の中でさえ、密着すればナガミツはひんやりと冷たい。  もうすでに、彼は自分が持つ金属と特殊繊維の肉体を隠そうともしなかった。それでも、ボロ布を纏って仲間たちに自分の弱った姿だけは見せようともしなかった。 「大丈夫か? スズラン」 「う、うん。あり、がと……ナガミツ」 「後にレオパとノリト、キリやアダヒメもいる。急がずしっかりな」 「うんっ」  ナガミツからそそくさと離れても、頬のほてりは熱砂の中でも柔らかく浸透してくる。灼熱地獄とは別の熱を胸に、スズランは地図を広げた。  実は、この探知機は指定された場所に接地することが前提になっている。  だが、危険なマモノがひそむゴ=ファ砂漠では、一歩間違うだけでも流砂に飲み込まれてしまう。運が悪ければ、永遠に砂漠を彷徨い続けることになる。 「あっ、ナガミツ……この先に一つ目の設置場所が――」  その時、砂を含んだ疾風が吹き荒れた。  同時に、目の前にマモノの羽撃きが風圧を広げてくる。  空からの急襲、それはまごうことなき竜の眷属、ドラゴンだった。 「チィ、ワイバーンか! ニーナ、マメシバを守って下がれ! お前らにこの荷物は重過ぎる!」 「フッ、逆だろナガミツ! 俺がニーナと荷物を守る。オフェンス、任せた!」 「だったら、マメシバがディフェンス! わたしが探査機は二つとも持つかんね」  砂嵐と共に、巨大な飛竜が降臨する。  もうすぐ最初の探知機設置場所だというのに、厄介な相手に見つかってしまった。ワイバーンは、ドラゴンの中では比較的一般的な種で、亜流も多い。  どうやら今回は、空中戦を得意として火球のブレスを吐き出すタイプらしい。 「ナガミツ、歌で援護を……っ、くっ!」  スズランがすぐに、敵へと吸い込まれてゆくナガミツの背中に詩篇を追わせる。だが、絶叫と共に羽撃くワイバーンの風圧が、あっという間にスズランの歌をかき消した。  悲しいかな、これが今のスズランの実力。  以前より成長して、多くの叙事詩を歌えるようになったが……それでもまだまだ、プリンセスとしては未熟だった。それが自分では痛いほどにわかるので、ギリギリと胸の内が痛んだ。ハントマンは互いの力を連携させて、そのシナジーで何倍もの結果を引き出すことができる。  だが、今のスズランの歌は、暴竜の巻き上げる嵐の中でかき消されてしまった。  でも、スズランは一人ではない。  誰かのために歌いたい、その誰かが一人でも、一人だけのために歌っている訳じゃなかった。 「スズラン、歌うです! アダおばさま、援護を……わたしが竜をおとなしくされるのです。むいいいいいっ!」  灼熱の大地を疾風が馳せた。  身を低く影のように、キリコが両の拳を構えて走り抜ける。  彼女はあっという間に、苦戦するマメシバとナガミツの間をすり抜けた。その跳躍が太陽の中に入れば、ブレスで迎撃しようとしたワイバーンが目を細める。  次の瞬間には、鋭角的な飛び蹴りの足刀がワイバーンの翼を切り裂く。  風が収まるなかで、背後からアダヒメの声が響いた。 「歌いなさい、スズラン! コーラスはわたしが! あなたの想いを歌に、詩に! 唄に!」  レオパが毒薬を手に、前衛に出る。そうすることで、スズランの前に仲間たちの鉄壁の守りが開かれた。千切れた翼の流血に濡れながら、ワイバーンは憤怒の咆哮でますます猛り狂う。  だが、落ち着いて深呼吸するスズランには全く危機感が感じられなかった。  ナガミツとキリコが、レオパとマメシバが自分を守ってくれている。  この信頼できる仲間たちの防壁を、きっと竜は穿ち貫くことはできない。  そしてスズランは、仲間たちの背後から彼らを支えることができるのだ。 「わたし、歌いますっ! この声に全てを乗せて……アダヒメ様の歌に身を委ねて!」  歌が広がり、空気を塗り替えてゆく。  獄炎の熱気で揺らぐ陽炎が、まるで踊るようにスズランの歌に合わせてリズムを取り始めた。その光景に鼻を鳴らして微笑むアダヒメも、スズランを後押しするように声を絞り出す。  突き進むスズランの声と、それを支えるアダヒメの声が融和し溶け込んで一つのハーモニーに収斂されていった。 「っしゃ、やるぜマメシバ! レオパもいいな!」 「わたしが引き続き、脚を止めるです。その隙に、トドメの一撃なのです!」  キリコが身を低く駆け抜け、左右に身を振りワイバーンの攻撃を回避してゆく。彼女は零距離に肉薄した瞬間、振りかぶった右の拳を叩きつけた。メリメリと音を立てて、甲殻と鱗で覆われたワイバーンの胸部に鉄拳の刻印が穿たれる。  断末魔にも等しい悲鳴が上がった時には、レオパとナガミツが走り出していた。 「とっておきの劇薬です……お願いできますか? ナガミツ」 「ああ! レオパが調合していた薬なら、ここだっ!」  ナガミツのナイフがワイバーンの身体を引き裂く。鮮血を吹き出すその傷口にすかさず、レオパが試験管の束を捻じ込んだ。  そして、砂の渦を巻いてターンしたナガミツが、再び渾身の蹴りを叩き込む。 「お前らが何体いようと、何百体いようと! 全ての竜を狩り尽くすっ!」  ナガミツの渾身の蹴りが、無数の試験管を傷口の向こうへと叩き込む。割れて散る硝子の光を浴びながら、ワイバーンはもんどりうってのたうち回った。血管に直接、猛毒を注入されたのだ……さすがの最強生物ドラゴンも苦しみもがくしかない。 「やったか……!」 「ノリトくん、それ禁止ー! わたし馬鹿姉から聞いたんだよね。そういうのはフラグっていって――!?」  ノリトとニーナのやりとりを突然、激震が引き裂いた。  徐々に弱って死んでゆくワイバーンは、巨大な地震が生んだ大地の裂け目に吸い込まれてゆく。立ってはいられないほどの揺れに、スズランはナガミツに支えられながら不安を胸の内に沈めるのだった。