ハントマンたちの戦いは新たな局面を迎えようとしていた。  時は来た! とばかりに張り切るマメシバを見て、思わずナガミツは目を細める。彼は最初から一貫して、この帝竜の討伐を主張していた、その上で、冷静な判断力を発揮してまずはペンディングにしていたのである。  そう、マレアイアの古代遺跡に巣食うドレットノートの討伐が始まったのだ。  意気揚々と元気なマメシバを見ていると、ナガミツの闘志も静かに高揚してゆく。  そんなナガミツの隣で、スズランが小さく笑うのだった。 「ナガミツもなんだか嬉しそうね。それに、今日はちょっとだけ調子よさそう」 「まあ、ちょこちょこ消耗品の類を交換したりしたからな。……確かにあいつは、俺たちの妹だったよ。妙な連中にも会ったが、敵じゃない……俺たちだけが戦ってる訳じゃないんだ」  不思議そうに小首を傾げるスズランを連れて、ナガミツは船を降りた。出迎えてくれる長老に、真っ先にマメシバが猛ダッシュで挨拶に走る。テンション高くそのあとを追うのはキリコだ。  なんか、ワンコっぽい。  マメシバもキリコも、ちょっと子犬っぽさがあってナガミツに温かな苦笑を運んでくる。 「ナガミツ、その、消耗品? やっぱりそれって」 「ああ、まあ……人間やルシェも風呂に入ったり、髪を切ったりするだろう? そういう感じさ。失ったパワーは戻ってこねえが、これ以上失うリスクも小さくできた」 「……やっぱりナガミツ、機械なんだね。でも」  切なげに、スズランはナガミツのまとうボロ布を指先でつまんでくる。  だから、ナガミツはその小さく白い手を握ってやった。  ビクン! と一瞬スズランは震えたが、おずおずと握り返してきた。 「俺は戦うための機械、人型戦闘機……斬竜刀だ。でも、本当は」 「ほ、本当は?」 「こうしてスズランたちの隣を、一緒に歩くために生まれたんだ。だからこそ、俺はこうしてここにいる。スズランたちのために、竜を狩るのさ」  そう、本来のナガミツたちは戦いのためのマシーンではなかった。  だが、時代がそれを許さなかったし、竜災害はナガミツたちに闘争を強いた。それでも後悔がないのは、ただ人の隣を共に歩む者として、人類の戦いに寄り添えたから。  一人の少女と共に、古き血の巫女と共に……無数の仲間たちと共に。  その記憶は刻の彼方に薄れていても、はっきりと感じることができた。 「さて、と……例の遺跡だが、アダヒメ」 「ええ。どうやら三本の塔が建っているようですが、なかなか難しい構造でしてよ」 「あっ、アダヒメ様! わたし、以前訪れた時に道具屋で地図を……あと、進入許可証とかの手続きも必要ですよね。先に片付けてきますっ!」  名残惜しそうにナガミツの手を放すと、スズランは桟橋を駆けて行ってしまった。その後ろ姿を見送っていると、突然脇腹にアダヒメの肘鉄が突き刺さる。 「痛え! な、なんだよアダヒメ」 「ナガミツ、わかってまして? スズランの気持ちは本物です。その想いを貴方は」 「……わかってる。けど、俺にはもう時間がない。最後は近い……それはお前も同じだろう?」 「そうでしたね。三度目の正直、今度こそ竜災害を滅して輪廻の呪縛から解き放たれる……そのためにも、ナガミツ」 「おう! やるぞアダヒメ……あらゆる竜を狩り尽くす」  二人は自然と、拳をコツンとぶつけ合った。  その上でしかし、姑みたいなアダヒメのお小言は続く。 「で、スズランのことはどうするつもりです?」 「どう、って……いや、どうにもならねえ! 俺には」 「その先は結構、でも貴方には……ふふ、フィーは今頃笑ってるかもしれませんわ」 「……へ? いや、それはどういう」 「もう少し色恋の機微も勉強しなさいな……ごめんなさい、貴方にはもうそういう時間は」 「いや、いいんだ。ただ、今はスズランの気持ちに応えてやりたいし、優しくしたい。その上で、本当のスズランの人生を始めてほしいんだ。じゃないと」 「じゃないと?」 「あの世でフィーに殴られる。グーパンチでな」  ナガミツがニカッと笑うと、アダヒメも微笑を浮かべた。  そこで攻守が逆転して、二人はマレアイアの砂浜に踏み入った。 「それよりアダヒメよぉ……お前、やらかしたな? やっぱりあのキリは」 「オーホッホ! なんの話だか皆目見当もつきませんわー!」 「どう見てもキリは……ユイは、先代の巫女とお前の子供だろう」 「……やっぱり、そういうのってわかるのかしら。意外なのだわ」 「先代の巫女さん、キリのおっかさんよぉ……随分苦労したんだろうな」 「彼女にも非はありましたわ。だから、見ていられなくて、ほっとけなくて」  今、長老を挟んでキリコはマメシバとあれこれ今後の説明をしている。なんだか「ぐわーんと!」「で、ぎゅいーんて!」「そして、どかーんです! むい!」って話なので、長老は混乱しているようだが、マメシバが上手くフォローしていた。  マメシバは以前から、この島の帝竜……ドレットノートの討伐を強く願っていた。  今まさに、竜災害の根源たる帝竜の討伐作戦が始まろうとしていた。 「ナガミツ、アダヒメ様も。こっちで宿の手配をしておきますので」 「あとは私が情報収集を……ふっ、失われし記憶が疼く、鎮まれこの右手!」 「あー、ノリト君。そういうのいいから荷物持ってね、はいこれ」  仲間たちも次々と下船し、それぞれの仕事に散っていった。  本当にいい仲間たち、いいギルドのメンバーだと思う。彼ら彼女らの背中に、ナガミツは昔の機動13班の追憶を重ねていた。  同じ道じゃない、けど、同じ方向を誰もが向いている。  もうすぐ自分の道は途絶えて、アダヒメの無限ループも終わる。そう思えば、ナガミツは込み上げる寂寥を闘志に変えて戦えるのだった。 「さて、行こうぜアダヒメ。……終りは近い。お互いでも、それは今じゃねえ」 「同感ですわ。ただ、スズランのことをお願いしたいのです」 「……変に夢見させるのも、白黒バキバキに決めるのもよ。でも、俺は信じてる」 「信じている? なにを」 「スズランは俺を好いてくれてるが、わかってるんだ。スズランの未来に俺はいない。でも、俺は今という瞬間のスズランに、平和な未来をプレゼントできるんだって」  アダヒメは笑わなかった。  ただ、そっとナガミツの肩に手を置いて、静かに頷く。 「必ず、想いを言葉で伝えなさいな。貴方の不器用な優しさは、わたしには昔から丸見えでしてよ。……悲恋でも恋は恋、しっかりケジメをおつけなさいな」 「だよな。俺は……スズランの気持ちには応えられない。でも、スズランの未来をもぎ取ってやれるし、その、なんだ」 「なんですか、急に口ごもって」 「女の子の初恋を大事にしない男は、きっとあいつがグーで殴るからよ。あと、ドロップキックとかバックドロップとか」 「ですわね……またフィーに会いたいですか? ナガミツ」  アダヒメが珍しく真剣な眼差しを注いでくるので、ナガミツは逃げずにその視線を視線で受け止めた。収斂される二人の目と目が生み出す糸に、数百年の刻、数百回の輪廻が行き来する。  それでも、アダヒメの額をデコピンでペチン! と撫でてナガミツは笑った。 「会えなくても、フィーはここにいる。俺の背中に、この胸に。それだけで今の俺は十分だ」 「エメルやアイテルに頼れば、再び会えますわ……わたしがこの身に滅竜の輪廻を呪いとして受けたように」 「いやー、それはいいわ。フィー自身も、フィートの別れも、大事な俺の思い出だからよ。都合よく再会するより、この痛みを力に代えて最後まで戦いたいんだわ」  それ以上、アダヒメはなにも言わなかった。  そしていよいよ、マレアイアに陣取る帝竜ドレットノートとの戦いが始まるのだった。