ナガミツたち『スノウドロップ』は、盟友『ハバキリ』との連携で三本の塔を攻略した。正確には、主塔を挟む形で防衛機能たる左右の副塔が建っていたのである。  その攻略も終わった今、ナガミツは両ギルドの選抜メンバーと中央塔を駆け上がる。 「面倒なことを考えやがるな、古代人は! ……その古代人も、俺から見れば未来人なんだけどな」  すでに神話になって忘れ去られた時代から、ナガミツは永い眠りを経てやってきた。まだまだ研究記録がある文明などは、このエデンでは昔話でしかない。ナガミツが仲間たちと駆け抜けた東京の竜災害は、今はもうおとぎ話ですらなかった。  だが、やることは変らない。  どこでも、いつでも、いつまでも……全ての竜を狩り尽くす。 「むいっ! ここが奥の部屋への扉です。……蹴り破るのですっ!」  小さなキリコが前に出て、さらに加速して蹴り脚を剣に変える。荘厳な観音開きの巨大なドアが木っ端みじんに砕け散った。  その時にはもう、ナガミツはマメシバやレオパと一緒に突入していた。  徐々に狭くなりながら天空に登る塔、その頂点に達して身構える。  目の前に今、巨大な竜が怒号を張り上げていた。  誰が呼んだか『最勇なるモノ』……帝竜ドレッドノートが眼光鋭くナガミツたちを睨みつけてくる。だが、その程度で委縮する四人ではなかった。 「っしゃ、決着をつけるぜ……なあ、マメシバ!」 「おうっ、ナガミツ! ずっと、後手後手に回って後悔していた。焦れた! けど、今こそマレアイアの平和のため、お前を討つっ!」  マメシバは当初から、このマレアイアを訪れた時に主張していた。誰もが悩んで苛まれる、この古代遺跡の帝竜を。しかし、物事の筋道や道理を説いて皆で諫めて、まずは砂漠で戦った。  その時から秘めていたマメシバの気持ちが今、爆発する。  それはナガミツもレオパも同じだったし、キリコも一緒だった。 「むいっ! 援護するのです! マメシバ、奴の首級をあげるのは、マメシバしかいないのです!」  突出したキリコが、左右の拳を振りかぶる。空を切り裂く連撃は、音の早さを超えて真空の刃を打ち出した。そこにもちろん、羽々斬の巫女の血が通っている。体の外に出せない、握った刃に伝わらない力は今、彼女自身の肉体が放つ技に宿って唸る。  ドレッドノートは、斬竜刀の風の刃に悶絶して唸りつつ、反撃の爪を振り上げる。  そこにマメシバが割り込んだ。 「仲間を守るっ! 守るためにこそ敵を討つ! これがっ、俺の騎士道だああああっ!」  激しい衝撃が空気を沸騰させ、追撃に走ったナガミツさえ立ち止まらされる。それほどの一撃を今、マメシバは構えた盾で完璧に受け止めていた。  同時に、膠着状態に入った戦場に音が響く。  リーン、ゴーン、リーン、ゴーン……荘厳な鐘の音。  ふと窓の外を見れば、左右の塔の上に二人の歌姫が身構えていた。  そう、これがドレッドノートの巣を守ってきた太古の秘密。三本の塔のその左右、そこにある封印を解かねばドレッドノートは常に無敵でいられるのだ。 「ナガミツッ! この鐘の音に誓う……わたし、みんなのために歌うっ!」 「いい覚悟でしてよ、スズラン……さあ、今こそ奏でて響かせる時! 歌よ詩よ、高らかに広がりなさい!」  左右の両方、主塔に向かって鐘の音と歌が響く。  封印されていたロナムの力が解放され、頂上にある双子の鐘が鳴り響く。そのリズムとビートに乗って、二人の歌姫が歌を解放した。  それは1と1との足し算ではない。  スズランとアダヒメ、二人の歌声は互いを高め合いながら響き合ってゆく。  今この瞬間、ドレットノートに向かう四人の背を押す温かな聖歌が包んできた。 「おーしっ! ここで燃えなきゃナイトじゃないぜ! はああっ、セイブザクイーン!」  真っ先に動いたのはマメシバだった。プリンセスの歌と祈りと願い、それを力に変える剣技が冴えわたる、重装備の重さを裏切る疾風怒濤の突破力が、ドレットノートに最初の傷を刻んだ。  絶叫が響く空気を、二人の歌姫が歌声で塗り替えてゆく。  そんな中、ナガミツはすぐ側で伏せていた友からフラスコを受けとった。 「いま、冷却材を外しました。常温なら、この毒は。……頼みます、ナガミツ!」 「いいぜ、任された! こいつで今っ! 決着をつける!」  レオパに託されたフラスコを手に、ナガミツが馳せる。  今出せる最大限のパワーを全身に張り巡らせる。結果的に最後は、その全てが失われると知っていても。最後に弱くなるとしても、ナガミツは今の最強を身に命じた。  その動きに合わせるように、キリコが横をすり抜ける。 「ナガミツ、援護するです! あいつの防御は、わたしが崩すのです!」 「まかせた、キリッ! ……おおっ! こいつを……文字通り、喰らいやがれぇ!」  キリコはドレッドノートとの零距離でワンツーのパンチから膝蹴りのコンボを叩き込む。小さな少女の天を衝く膝蹴りが、ドレッドノートと地面とを引き剥がした。空中に浮かされ身動き不能なそのドレッドノートに、ナガミツが全力全開で飛び込む。 「喰らって寝てろ。そのまま、寝て死ねっ!」  身体の余裕が減れば減るほど、自分の人格が荒んでゆく自覚はあった。遠い日の親友も恋人も、こんなナガミツに苦笑するかもしれない。  だが、そんな人たちのために、なによりエデンの民のために戦うナガミツは誓った。  この身が朽ちて滅んで、最期の時を迎える瞬間まで……全ての竜を狩り尽くすと。 「くっ、硬ぇ! 刃が通らない! なら、押し込み、穿ち貫くっ!」  ドレットノートの懐に飛び込めた、そしてその心臓めがけて盟友のナイフを突き立てた。だが、二人の歌姫が歌う支援、そしてレオパの毒薬が効いているのに。それなのに。ドレッドノートは激しく暴れて主塔自体を崩さん勢いで暴れ出した。  だが、ナガミツは仲間を信じてナイフを押し込む。  スズランとアダヒメの歌が亡くした力を蘇えらせてくれる。  マメシバのフォローも、レオパの援護も完璧だった。  そして、ナガミツは……斬竜刀は一人じゃない。  いつの世も、斬竜刀は一振りではないのだ。 「ナガミツッ! ここは任せるです! ナガミツの想いを込めた一突き……わたしが突き通す! 穿ち貫くのです!」  とっさに身を翻したナガミツの前を、疾風が走った。  強烈な飛び蹴りで、キリコはナガミツのナイフをドレッドノートに突き立てる。そのまま力に任せて強引に、しかし的確に正確にナイフを蹴りで押し込んだ。  ドレッドノートの心臓を貫通したナガミツのナイフが、その背後の壁に突き刺さる。  その時にはもう、トドメのオーバーハンドブロウを叩きつけられたドレッドノートは死んでいた。生ける斬竜刀そのもの、両手両足を刃とするキリコが今、完膚なきまでにドレットノートを叩きのめしたのだった。 「やるじゃねえか……こりゃ、安心だ。ほっとしたぜ、キリ」 「むいっ! わたしはやればできる子なのです! ……ほっとした?」 「あとを任せられるってよ……羽々斬の巫女の血筋、ありがてえぜ」  それだけ言って、ナガミツは自意識を保てず停止、休眠状態になった。いつも戦いでフルスペックを活かせない、オーバーロードしてしまうと仲間はどうなるのか? その心配は今回だけは、まったくないまま斬竜刀の青年を眠りへと誘うのだった。