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「さって、と…行く?」

 重い金属音を響かせ、ヘヴィボウガンが炸薬を飲み込む。撃鉄は引き上げられ、銃爪に掛かる細い指。

「もっちろん!逃げる理由はなーんも無いッス!」

 焔龍の鎧をジャラリと鳴らし、背の大剣に手を伸ばしながら。逸る気持ちに滾る血潮、不適な笑み。

「あれはやめた方がいいと思うなぁ…って、聞いてる?」
「ダメよ、いっちゃん…全然聞いてない。ホント、しょうがない子達ね…」
「ウホッ、耳栓スキル高ェ!人ノ忠告モ大事ト思ワレ…オレモ行クケドナー」

 この大地の上に人の理は無く、この空の下に知の恩恵は皆無…天と地の狭間を満たすのは、野生と本能が支配する大自然。その中へと飛び込んでゆく者達に、人の何を望めようか?小賢しい技も小利口な知恵も、ここでは意味を成さない。英知は胸に秘める物、身に宿らせるは勇気のみ。誰が蛮勇と笑おうが、ハンターの背を押すのは…今も昔もただそれだけ。

「っしゃ、行くッスよぉ!たかがクック、秒殺ッスよ…びょー、さ、つ!」
「されどクック…って事も無いか。いっちゃん、めるもちょと行ってくる!」

 ペッと手に唾を吐き、巨大な炎剣リオレウスを握るサンク。その眼差しの先、稜線の彼方に小さな影。ヘタレ新米ハンターも今では、怪鳥イャンクックを雑魚呼ばわりするほどに成長していた…否、増長していた。弾かれ転がるように駆け出す彼女に、メルとツゥがすぐさま続く。

「ブランカさん、双眼鏡ある?あのクック…」
「はいこれ。一目瞭然…どう見ても、ねぇ?」

 二人を残して、ゆるやかな斜面を駆け下りるサンク達。快晴の午後、雲は高くをたゆたい、渡る風は穏やかに草原へ小波を寄せる。今は穏やかな顔を覗かせる自然の、その頂点を占める眷属達へ立ち向かう…視界の影はみるみる大きくなっていった。徐々に輪郭も露になる怪鳥イャンクック。どんどん近付き、どんどん大きく…大きく、大きく、大きく。ありえないほど大きく。

「ふごぉぉぉぉぉ!…お?おお?…めるめる?なんか…でっかくないスか?」
「き、きき、気のせいだよ?気のせいだってば、気の…うそぉん、でかっ!」
「デ、巨大ナくっくヲ前ニシテ…俺等ガ急ニ止マレナイ件ニツイテ一言」

 火竜は愚か、角竜や鎧竜程もあるだろうか?一般的なサイズを遥かに凌駕する、壁のように聳えるイャンクックへ。既に半ば及び腰になりながら、三人は突っ込みブチ当たって転げ回った。その光景を双眼鏡で眺めながら、イザヨイの溜息。ブランカは黙ってボウガンを展開すると、手早く薬莢を押しこむ。

「しっかしデカいクックだねぇ…距離感食われちゃってるし」
「いーからめるめる、逃げるッスよ!光りの速さで逃げるッスよぉ〜」
「同意!クックもここまでデカいと火竜並な罠!つーかヤベェ!」
「あ、ツゥさんが普通に喋っアッチャァ!火弾が何時もより%&¥*#!」

 猛者達が転げて逃げ惑い、火弾に焼かれながら轢き飛ばされる。いかに高価な素材で鎧を紡ごうとも、それを着る人が変わる事は無く。寧ろ飛竜達の衣を纏いながら、飛竜達の恐ろしさを痛感するのだ。人は大自然を前にした時、余りに小さく弱い。故に散り逝く者は後を絶たないが…

「どれ、少し手伝っちゃうかな?実は私も行きたかったんよねぇ」
「…意外。まぁ、私も仲間に入れてもらおうかしら?しょうがない子達の、ね」

 それでも挑む者もまた後を絶たない。奇跡の神器も聖なる魔法も無い、残酷で野蛮なこの世界で。勇気一つを武器にして。

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