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「はぁ…どーせなら先輩とが良かったッス〜」
「まだ言ってんのかい?御嬢ちゃん」

 砂岩質の岩場を超え、荒地を行く二人の狩人。その片方、サンクは一歩進む度に、同じ愚痴を繰り返す。一歩追う度にそれを聞かされるウィルは、それでも気を悪くした様子も無く後に続いた。
 砂漠での調査も三日目を向え、持ち寄った物資も残り僅か…狩人達は残された時間を最大限に活用すべく、手分けしての探索を決行した。危険極まる銘入の飛竜を探す、そのリスクは大きく跳ね上がるが…砂漠と言う環境は非力な人類に、滞在の時間を長くは与えてくれない。

「ホント、御嬢ちゃんはクリオさんにベッタリだなぁ」
「いやぁ、照れるッス…自分、先輩みたいなハンターになりたいんスよ!」

 大真面目でサンクは胸を張る。身を固める防具も無く、知識も経験も無く、恐らく最低限の心構えや覚悟も持ち合わせて居ないのに。ただクリオに憧れる少女に、ウィルは苦笑を禁じえなかった。ただ、サンクを強烈に惹きつける人物の事は、誰よりも良く知っていたし…何より、自分や古い知己にもその覚えはある。だから今は、無邪気なサンクを愚かしいとは決して思わない。ただ、ついつい苦言が口をついて出たが。

「先輩みたいなハンター、ねぇ。先輩みたいなガンナー、では無い訳だ…そだろ?」

 そう言ってウィルはサンクに追い付き、追い越して振り向く。傭兵団《鉄騎》のハンターとして、数々の同業者を見て来たウィルだからこそ、キッパリと断言出来る事があった。サンクはどう見ても、ガンナーとしての資質を…否、資格を欠く。ハンターとしての資格まで問うつもりは無いが。
 モンスターハンターの中でも、ガンナーと称される者達。彼等彼女等に求められる物は多い。冷静な判断力、豊富な知識と経験…多種多様な弾薬を自在に調合し、それを状況に合わせて使い分けなければならないのだ。無論、用途別にボウガンや防具を揃える事が最重要なのは言うまでも無い。

「何スか何スか、何言ってるスか!自分は先輩みたいになるッスよ!」
「まぁ落ち着け、時に落ち着けって…悪いが御嬢ちゃん、無理だ。自分の姿を見てみろよ」

 幼子に諭すように、しかし毅然と現実を伝えるウィル。言われるままにサンクは、自分の身体を眺め回した。店で売られているような、安価な防具すら身に付けていない身体。ピッケルや虫あみばかり詰め込んだ、弾薬の乏しい荷物。ガンナーの命とも言えるボウガンは、クリオから借りたっきりで手入れも疎か。
 ウィルの言わんとする意図が、鈍い頭脳へ何とか染み渡ると。神妙な面持ちで俯いたっきり、サンクは黙りこくった。気持ちばかり急いて、口ばかり威勢が良い自分…しかしその実、地道な努力を怠っていた事は明白。その事を指摘され、今はサンクといえど恥ずかしさに震える他無かった。

「あ、ちょっ…待て待て、そんな切なそうな顔するなよ。妙な気分になるぜ」

 意外な落ち込みぶりを見せるサンクに、ウィルは慌てて場を取り繕った。しかし前言は撤回しないし、するつもりは微塵も無い。師であるクリオは恐らく、その事にサンク自らが気付く日を待っていたのだろう。その日が来るまで、自分が面倒を見る積もりで。だが生憎と、今サンクとツーマンセルで獲物を追うのは、他の誰でも無いウィル本人なのだ。

「ん…何か自分、駄目駄目ッスね」
「今は、な…それともう一つ。俺ぁずっと思ってたんだが、御嬢ちゃんは…ん?あれは」

 何より伝えたい、一番の大事な言葉を飲み込んで。ウィルは空に尾を引く信号弾を見上げた。それはもう一方に分かれた仲間達からの、目標発見の知らせ。その発射音に気付き、振り向き天を仰ぐサンク。その顔に普段の、根拠無き自信は無かったが。それでも彼女は、ピシャリと頬を叩いて走り出す。

「うしっ!取りあえず、それはそれ…これはこれッス!」
「あ、ああ…立ち直り早いじゃないか、御嬢ちゃん。それじゃ、行くぜっ!」

 サンクの後を追いながら、ウィルは改めて思い出していた。初めてクリオと再会した昨日の事を。その時、ボウガンで勢い良くゲネポスを打ちのめしたサンクの一撃を。彼女は恐らく、クリオのようなガンナーにはなれないかもしれない。だが、違う可能性を見出し、その事を伝えたかったが。今はサンクの師にならって彼も、本人が気付く日を待つも良しと感じて…その背を追い駆け走った。

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