太古の遺跡の、その
見下ろす先に、見たこともないジンオウガが
「なんだ……!? 黒い、ジンオウガだって!?」
かろうじて絞り出した言葉が、見たままの光景を現す全てだった。
眼下に今、漆黒に
その名を呟く声が、ようやく背後からよじ登ってくる。
「これは……
「エル、知ってるのかい? これは」
「獄狼竜……ジンオウガ原種をベースに
「龍を、狩る……竜」
オルカも以前、エルグリーズから聞いたことがある。
飛竜とは、その時に古龍から生み出された、古塔と古龍へ抗うための力だという。
「気をつけてください、オルカ。攻逐種、獄狼竜はとても凶暴な個体なんですっ! それに、対古龍用に特化した、特別な力を与えられているです……」
「オルカ様、エル様もっ! 来ます!」
アズラエルの小さな叫びと共に、三人の足元が激震に揺れた。
大地を
相変わらずインナー姿のエルグリーズは尻もちをつき、アズラエルに引っ張りあげられていた。
「最悪です、オルカ! アズも。獄狼竜の危険度は、並のモンスターや飛竜とは別格なのです。今のエルたちでは、勝ち目は――アズ?」
オルカの背後では慌てふためくエルグリーズと、その長身を立たせたアズラエルが武器を構える気配。アズラエルはエルグリーズの言葉を聞いているのかいないのか……多分、聞いていないなと思った時には、オルカも背のスラッシュアクスを展開していた。
「オルカ様、強敵だそうです。しかし、相手は同じ生物……やってやれないことはないかと」
「奇遇だね、アズさん。俺も今、そう思ってたんだ」
オルカはスラッシュアックスの中のビンへ、劇薬の圧縮を命じてレバーを押し込む。
アズラエルもまた、展開したヘヴィボウガンへと弾薬を装填し、撃鉄を引き上げた。
「ふっ、二人共! なにやってるですか、逃げるですよ!」
「お断りします、エル様。……いいじゃないですか、珍しいモンスターなのでしょう? きっと、素材が高値で売れますね」
あわあわと要領を得ないエルグリーズと違って、アズラエルは酷く落ち着いている。だが、オルカにはわかる……落ち着いているように見えて実は、アズラエルは狩りの高揚感に昂ぶっているのだ。何故なら、オルカもそうだから。
二人は長い間狩りを共にする中で、互いの感情が重なる瞬間を見出していた。
不思議と言葉と言葉で確認しなくても、同じ気持であることが信じられた。
「エル、早く防具を着てくれ。俺は……アズさんと、一当てしてみる!」
「援護しますよ、オルカ様。では、参りましょう」
相変わらず巨体を浴びせてくる獄狼竜の振動に、今にも足場は崩れそうだ。
だが、頭を抑えて上を取っていることはモンスターハンターにとって有利……オルカはアズラエルと頷きを交わし合うと、眼下の獄狼竜へと身を
「乗りを狙います、オルカ様!」
「俺もだ! まずは、機先を……制する!」
二人は見上げてくる獄狼竜の背中へめがけて、まっすぐに飛び降りた。オルカは獄狼竜の中心線をわずかにかすめて着地したが、続くアズラエルが背の上へと飛び乗った。アズラエルが早速ボウガンを放り捨ててナイフを手にすると、むずがるように獄狼竜が暴れ出す。
「ナイス、アズさん!」
「お任せを、っと? おや、結構暴れますね、これは」
「え、ええと、エルは、エルは……とっ、とりあえず防具を着てくるです!」
自らを投げ出すように転げて暴れる獄狼竜の背で、懸命にしがみつきながらアズラエルがナイフを振るう。
そしてとうとう、痛みに耐えられなくなった獄狼竜が体勢を崩して倒れ込んだ。
同時に宙へ身を躍らせるアズラエルへと、オルカは地面のヘヴィボウガンを蹴飛ばし転がす。
「尻尾の切断を狙うっ!」
「では、私は角を破壊しましょう」
二人の連携は完璧に思えたし、
ボウガンを拾い上げたアズラエルが視界の隅でしゃがみ込むや、オルカは走る自分へさらなる加速を命じて刃を
振り上げた
だが、
「刃が通らないっ!? 肉質が、硬いのか。どこだ、どこなら」
オルカが現在使っているのは、あれこれ買い直したり作り直した結果、結局は
だが、その研ぎ澄まされた刃を獄狼竜の尾は難なく弾いてくる。
竜姫の剣斧の切れ味が悪いとはいうよりは、純粋に肉質が硬いのだ。
「オルカ、お待たせです! 尻尾ならエルも手伝えるです!」
ようやくハンターシリーズの防具を身にまとったエルグリーズが、真っ直ぐこちらへと突進してくる。一撃を弾かれ怯んだオルカは、その反動を利用して下がるやエルグリーズへ場所を譲った。
アズラエルのしゃがみ撃ちが容赦なく頭部へと集中する中、徐々にだが獄狼竜は起き上がりつつある。その尻尾へと、力強く踏み込んでエルグリーズは背の大剣を解き放った。
だが、結果はオルカと同じに終わる。
なによりエルグリーズの剣は、まだまだ錆だらけの風化した刀身でボロボロだった。
「んががっ! 硬いです! 流石は獄狼竜……はっ! い、いけないです、起きる!?」
むくりと巨体を揺るがせて、獄狼竜が立ち上がる。
その目に光る殺意が、その周囲に黒い稲光を呼んだ。
獄狼竜は漆黒の稲妻を周囲へと落としながら、ゆっくり距離を詰めてくる。
立ち上がったアズラエルが横転に転がり立ち上がって、ヘヴィボウガンを畳むや走り出す。オルカも身の安全をはかるべく後に続いた。決して獄狼竜から目を離さずに、一定の距離を保つようにして脚を使う。
通常のジンオウガならいざしらず、情報もない未知の強敵が相手だ。
なにが飛び出すかわからないし、普通のジンオウガにない攻撃を隠し持っていることは明らかだ。
「オルカ、気をつけてください! アズも! 獄狼竜は、対古龍用に徹底して調整された竜なんです……だから、獄狼竜の使う属性は――」
納刀と同時に転がるエルグリーズの声が、一際強力な落雷の轟音に遮られる。
否……それは周囲へ落ちる光ではなかった。
オルカたちを追い詰めるように地へと招いていた暗い輝きが、突如として集まるように獄狼竜から屹立する。天を衝く暗黒の波動が光条となって、辺りを
全身を
龍を狩る竜、地獄の番犬にも似た悪鬼がそこには現れていた。
「お怒りのようですね。どうします? オルカ様。今ならまだ逃げる手もありますが」
「ネコタクをあてにしつつ、もう少しつついてみよう。勝てれば大金星だしね」
言うが早いか、オルカは刀身を変形させて剣斧のスラッシュモードを起動する。
強力な