どこまでも平坦な風景が、縦に横にと連なっている。その中を歩くうちに、バノウニたちは何度も探索済みのエリアへ放り出された。そして、道は常に一方通行……再び新たな区画への入り口へと戻される。
それでも、おぼろげながらフロアの中に秘密の空白地帯が見えてきた。
そこだけ一定の広さで、恐らく隠された広間があるようにバノウニには思えた。
「とすると……こりゃ、あれだなあ?」
バノウニが書く地図を、隣からアーケンが覗き込む。
「お宝が隠されてる、ってのが定番じゃねえか」
「それさあ、アーケン……ほら、この間の」
「……やっぱ、そう思うか?」
「思う思う、カズハルだってそうだろ?」
以前の苦い思い出が蘇る。
探索済みかと思われた第一階層『
ドリアードと呼ばれる、凶暴な樹霊との遭遇戦。
ジェネッタの機転とポン子のデタラメな強さがなければ、恐らく全滅していただろう。
今も思い出すだけで、バノウニはぞっとする。
だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、である。
その証拠に、
「あれ、ここは一方通行じゃない……で、さ。ここに扉があるんだけど」
カズハルの言う通り、不意に視界が開けた。
そこだけ妙に空気が澄んでいて、荘厳な扉が水晶の柱に囲まれている。ちょっとした
無数の複雑な迷宮構造と、高度な術式を使った隠蔽工作。
間違いなく、ここには
それは、後方のコロスケとナルシャーダもひしひしと感じているようだ。
「ナル殿、扉でござる。……
「うむ、この気配。いるな」
「
「では、ゆくか」
アッ、ハイ……思わずバノウニは、フラットな表情で
そして扉が開かれる。
ギギギとかしいだ音が、閉ざされた年月を
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……ほう?」
背後でナルシャーダが、
そう、まるで祭壇のような部屋の中央に……
女だ。
それも、美人である。
だが、
びりびりと肌が震え、瞬時にバノウニたちは武器を構える。
腰の太刀に手をかけつつ、コロスケは平然と笑った。
「ふむ、蛇ですな。それも、とびきりの邪悪にて」
そう、蛇……まさに蛇女としか思えぬ怪物が鎮座していた。その巨体を見上げながら、バノウニは脳裏の記憶を引っ張り出す。
確か、古い民話や伝承に登場する怪物……名は、ラミアだ。
神々の
そして、同じ知識をナルシャーダもまた、思い出したようだ。
「……ラミア、か。美しく、ない。いや、造形は美しいのだが。だが、まてよ? この
「あのー、ナルさんっ!」
「まあ、待て。レディは随分と空腹のようだが……恐らく、数百年単位でのダイエット中だったと見える。よし、俺様に任せ
つかつかとナルシャーダが、無防備に歩み寄る。
そして、彼はおもむろに自己顕示欲を解き放った。
不思議なポージングと共に光が溢れ……そして、絶叫。
ラミアの太い尾がしなって、ナルシャーダを
「う、うう……うおおっ! よくもナルの兄貴を!」
「いや待って、ちょっと待ってアーケン。今の、どう見てもナルさんが」
「っていうか、死んでないよね? と、とりあえず、この流れって――」
なし崩し的に戦闘が開始された。
コロスケは落ち着いていたものの、なんだか釈然としないバノウニ。だが、すぐに瘴気を帯びて己に
両手に握った
ラミアもまた、いよいよけたたましい声を張り上げ襲い来る。
世界樹の迷宮は常に、栄光も名誉も危険と隣り合わせ……そして、数百年前の
恐らく、このラミアもまた太古の昔に封じられし者。
それに触れた今は、解き放たれる前に倒すしかない。
「先手必勝っ、奴の攻撃力を……削ぎ落とすっ!」
殺意も
動きの鈍ったラミアへと、仲間たちの攻撃が火を吹く。
「おっしゃあ! 次は俺だ!」
アーケンが続けざまに死霊を召喚し、解き放つ。
嘆き叫ぶ炎の塊が爆ぜて、ラミアは痛みに苦痛に
手応えは、ある。
それに、守りの備えも抜かりない。
「おっし、バンカーはこれでオッケー! みんな、こっちへ!」
カズハルが既に、簡易的な防御陣地を構築していた。
ラミアが、耳元まで避けた口から毒々しい
だが、バノウニたちはダメージらしいダメージも負わずにその攻撃を耐えしのぐ。
決して油断はせず、過信も慢心も今は贅沢として戒める。
ただ全力で、本当の自信を取り戻す戦いが続いた。
そして、コロスケも伸びてしまったナルシャーダを抱えながらバンカーの影にやってくる。
「妙でござるな……もろすぎる」
「と、言うと」
「封印されし魔物なれば、もう少し凶暴で手強い
「ま、まあ、そうだけど……結構いっぱいっぱいですよ! これ以上強かったら
だが、コロスケの言うことも確かだった。
遥か昔、この地にラミアを封じて鎮めた者がいる。それは、
そして、その前に真実がちらりと素顔を見せた。
攻めあぐねたラミアの全身が、まるで膨らむように震えた。
その下半身から飛び散った