星を巡って宇宙を歩く、そんな旅に今……終わりの
ニカノールにも仲間たちにも、そうだと実感できる光景が目の前に広がっている。数多の光を飛び越え、転送装置をくぐる度に激戦と苦闘で迎えられた。
そんな第六迷宮『
「ニカ、なんだか、アタシは思うのです」
「うん」
珍しく神妙な顔をしているが、ノァンはニカノールを振り向きニヘヘと微笑んだ。
彼女の向こうには、今までとは全く雰囲気を異にする回廊が伸びている。今までも複雑怪奇な魔宮続きだったが、ここにきてシンプルな一本道が真っ直ぐ伸びている。
周囲の星々も、その階を飾るように線対称の輝きを並べていた。
「ニカ……この先にきっと」
「そうだね。僕にもそう思える」
「なら、いよいよ大決戦なのです! アルコンのために頑張るです!」
フンス! と気合十分でノァンが両の拳を握る。
ニカノールもまた、大きく頷いた。
そして、背後で仲間たちも意気込みに武器を鳴らす。
「ようし、やろうぜニカ! 俺もフレッドも、準備万端だ」
「一度街に戻るのもいいけど、手ぶらで帰るよりなら少しでも情報がほしいね」
「なんにせよ、さっき死霊を呼び直したばかりだ。
ナフムとフリーデル、そしてフォリスだ。
皆、決戦の時を敏感に察している。
そこには気負いも恐れもなく、かといって楽観も見て取れない。
本当の強敵との、死闘が待ち受けていてもだ。
その意味を理解する心と身体が、
「ん、じゃあやってみようか。ただし、相手は未知の怪物だ。なにせ、星を喰う者らしいからね」
「ですです、そうなのです! だから、最初はシンチョーに、かつジューナンにいくのです!」
「おっ、ノァン。難しい言葉知ってるね」
「オシショーはお勉強も見てくれるのです。いまでは九九も五の段まで覚えたのです!」
なんとも頼もしい限りだ。
そして五人は、
その先頭を歩けば、自然とニカノールも歩調が強くなった。
横に並ぶノァンも、意気揚々と肩で風を切る。
目の前に、荘厳な扉が見えてきた。
あの先に、あの向こうに――そう思った時だった。
「ふぎゅ!?」
「あ、あれ?」
突然、目に見えない壁があって、ニカノールとノァンは同時に妙な声が出た。
滅茶苦茶格好良く、ありったけの雰囲気を演出して進み……格好悪く無様に壁に激突して、そのままへたり込んだ。
もう一度手を伸べてみる。
確かに見えない壁があって、しかも割りと硬い。
溜息しつつ肩越しに振り返ると、ナフムとフリーデルが必死に笑うのを我慢していた。
「む、ぐぐ……ぷはっ、はははは! おい見たかフレッド! なんかドヤ顔でさ」
「笑っちゃ悪いよ、ナフム。……ぷっ」
背を向けているフォリスも、肩が震えていた。
そう、いざ決戦! と歩み出た、これが舞台劇ならクライマックスという雰囲気だったのだ。だが、どうやらまだ未知の怪物とは対面できないらしい。
ぶすっと
「……妙だな。魔術的なものではないけど、かなりそれに近い」
「叩いても割れないです! ――せーのっ、えい! ……蹴っても、駄目です」
どうやら、最後の最後に複雑なギミックがあるらしい。
そうこうしていると、突然背後で声がした。
「冒険者たちよ、ついに来てしまったか……
皆で振り返ると、そこにはアルコンが現れていた。
彼女は、嬉しそうな、そして少し寂しそうに微笑んだ。
「まだ、我らが星の海を渡る回廊に自己防衛システムが生きている。汝らの星をめざして回廊を
「……ニカ、アタシなにを言われてるかサッパリわからないです」
「だ、大丈夫、僕もだよ。多分、星喰を一時的にこの奥に閉じ込めたって意味だと思う」
この第六迷宮は、アルコンたち宇宙の種族が旅をするためのものだ。本来は船で行き来するらしいが、こうして徒歩でも使用することができる。
危険な魔物も
その自己防衛機能が、侵入した星喰をキャッチしたらしい。
アルコンは左右を見て、小さく頷く。
「隔離を解除するには、このフロアの左右にある安全装置を操作する必要があるだろう」
「安全装置……」
「手動でシステムを停止させれば、この先のロックを解除できる。だが」
僅かに
今度は、友に向けるほがらかな笑みだった。
「ん、汝らには愚問であったな。冒険者とは、未知と神秘を正しく恐れ、そして恐れるからこそ挑んでゆける。それをずっと、見せてもらった」
アルコンが言うには、安全装置の手動解除システム周辺には危険な罠が待っているという。今まで迷宮内で味わった、
だが、アルコンの言う通りだ。
それをニカノールは、今回も行動で示して証明しょうと思った。
「勿論だよ、アルコン。大丈夫、僕たちに任せて」
「ありがとう、ニカ。皆にも感謝を」
「じゃあ、行こうかみんな! まずは」
ニカノールは少し戻って、改めて左右を見やる。
扉は両方とも、アルコンの視線を受けて小さく
どうやら入れるらしいが、ここからが激闘を予感させた。
そして、それを乗り越えてようやく、真の強敵である星喰に立ち向かえるのだ。
そうこうしていると、ナフムが「よぅし!」と身を乗り出す。
「せっかくだから俺は、右の扉を選ぶぜ!」
「なにが『せっかくだから』なんだい? ナフム」
「おいおい、フレッド。こういうのは雰囲気が大事なんだ。よく言うだろ? 病は気からってな!」
「全く例えになってないし、使い方間違ってるよ。まあでも、ちょっと覗いてみよう」
ブンブンと大きく頷くノァンも、てけとてと二人に続いた。
ニカノールもフォリスと互いの死霊を調整して、歩き出したその時だった。
転がるようにしてナフムとフリーデルが戻ってきた。
二人共、ちょっと花街の女たちが見たらげんなりするような顔をしている。
「みっ、みみみ、見たか! おいフレッド! どういうこったよ、こりゃ!」
「俺に言わないでくれ! と、とにかく、少し準備が必要だね。……死ぬかと思った」
あとからノァンも戻ってきたが、表情を失っていた。なんだか、見てはいけないものを見たような、そんな状況で表情筋が完全に凍っている。
「左からいこう、うん。フレッド、今度こそぬかるなよ」
「あ、ああ。いや、むしろここは……って、ナフム!? どうしてお前はいつもそう!」
「おらおら、ごめんくださいよぉ!」
結果は同じだった。
そんなやりとりを見ていたアルコンが、しれっと静かに告げる。
「左右のフロアの防備は完璧だ。しかも、安全装置はその最奥にある。汝ら冒険者でも、危険な戦いになるだろう」
そういうことは早く言って……やれやれとニカノールは肩を
だが、アルコンがやっぱり愉快そうに笑っているので、自然とナフムやフリーデルも笑顔になった。そして一同は、改めて戦力を再編成し、最後の謎に挑むことになるのだった。