今日も今日とて、ヒロは冒険で汗を流していた。  いつも一緒のウカノと、色々とガンナーの技術や知識を教えてくれるヴァイン、そしてリベルタともう一人。 「おっけ、こっちの採掘は終わったよー、豊穣ちゃん」 「こっちもこのへんでいいか、豊穣ちゃん」 「ヒロの方はどうですか? 豊穣さん、ちょっと見てもらっていいでしょうか」  素材の伐採を終えたヒロの近くに、顔を真っ赤にしたファーマーの少女がやってくる。そう、豊穣なる秋の死神ことドロテアだ。見るも可憐な美少女リーパーに見えなくもないが、実は農家の娘でファーマーである。  その彼女が、唸るように羞恥の言葉をつぶやいた。 「ううう……恥ずかしいですよぉ。それは、その、どうして皆さん知ってて……ヒロさんもですか?」 「あ、いや、オレは……みんなもだけど、まひろちゃんから聞いたよ」 「むむー、あのむちぷり幼女め。……自分の方が設定爆盛りなくせにぃ」  などといいつつ、早速ドロテアはファーマーとしての目を光らせる。  ヒロとしては、可能な限り伐採を行ったつもりだ。このレムリア群島には、迷宮以外にも多種多様な素材が採集できるポイントが点在している。  定期的に訪れて素材を集めるのも、冒険者としての立派な仕事だった。  そして、ドロテアは手にした大鎌を「ふむ」と身構える。 「ヒロさん、こっちのも貰っていっちゃいましょう。で、樹海アロエだけは後続さんに、他のギルドさんに残せばいいかな」  手際よくばっさばっさと、ドロテアが大鎌で縄文樫を薙いでゆく。  そこも伐採の対象だったかと、あらためてヒロは驚いた。彼女がせっせと刈ってゆくので、それを纏めて縛る手伝いをする。 「まったく、どうしてあんな名乗りをあげちゃうかなあ……トホホ」 「あ、でもドロテア……気にすることないと思うよ。誰でもそういう、中二病? 的な時機があるから」 「そ、そうでしょうか? でも、もうちょっと設定を練ってから名乗りたかった……」 「はは、でも悪くないと思うよ。豊穣なる秋の死神」  この働きっぷりはまさしく、豊穣なる秋の実りにも等しい。今日もドロテアのおかげで、ターヴュランスとストラトスフィア、両ギルドは大量の素材を確保することができた。  持ち物もそろそろ限界なので、マギニアに戻ろうとしたその時だった。  不意にウカノが、笑顔でヒロの黒歴史を語り出した。 「そういうのはわたしの里でもありました。それに、ヒロもつい最近までヒーロー物語の――」 「ま、待て、待ってくれウカノ! その告白はオレに効くっ!」 「結構頑張って集めてましたよね、なんかネット対戦? の二つ名とかも凝ってて」 「もうやめて……オレのHPはゼロだよ……」  ぼんやり意味がわかるのか、リベルタがチャシャ猫みたいにムフフと笑っている。  そう、ヒロも一時期ヒーロー同士が対決するネットワークゲームにはまっていた。全国大会レベルのランカーで、それなりに有名なハンドルネームでVR空間で俺TUEEEEEEしていたのだった。  それももはや今は昔、現実は異世界で冒険者生活である。 「まあ、ガキのころはそういうのあるらしいな。まひろもそのうち、そのチューニビョーとやらになるのかね」  ヴァインは周囲を冷静に警戒しつつ、リボルバーの弾薬を詰め替えている。灼けた空薬莢が吐き出され、地に跳ねる前に彼はガシャリ! と撃鉄を引き起こした。  思い出したように自分も弾薬を補給しつつ、ヒロはそれとなく聞いてみる。 「ヴァインさんにもやっぱ、そういう時機がありました? 憧れのヒーローとか、そういうの」 「うん? どうだったかねえ。こちとら、物心ついたときから戦争三昧だったからな。ああ、ただ……一時期在籍してた傭兵団の団長にゃ憧れたかな? よく真似たもんだぜ」 「な、生々しい……」 「ま、戦場じゃ格好つけてる暇なんかねえからよ。……あの団長も逝っちまったしな」  その傭兵団が壊滅した時にはもう、ヴァインは姿を消していたという。いつでも一人、勝利条件を満たしては消える傭兵……作戦成功率99.8%。誰が呼んだか、その名はバニシング・トルーパーとして闇社会ではちょっとした有名人だ。  この人の方がむしろ、ドロテアやヒロよりよっぽどリアルで中二設定だ。  だが、そこには思春期特有の愛らしさも滑稽さもなく、殺伐とした命のやり取りがあるだけだった。 「さて、そろそろ戻るか。今日も大収穫、戻ったらジルちゃんたちと合流しなきゃな」 「昨日言ってたあれ? 海の一族との王女同士の会談を設定するってやつ」 「ああ。とりあえず向こうの出方待ちだが――」  その時だった。  突然、背後で声がして誰もが振り返る。  そしてヒロも見た。  そこにはきらびやかな装束に身を固めたプリンセスが、どんより濁った瞳を暗く輝かせていた。 「待たせたの、マギニアの冒険者たちよ! そして、息災そうでなによりぞ、豊穣の!」  ああ、この人が噂の……ヒロは先日、海の一族の居留地から戻ったジルベルトたちの報告を聞いていた。  自称、禍神の姫巫女シェイレーヌとかいう人物だ。  どうにも、噂話ばかりでなんとも胡散臭い。中二病を通り越して、一昔前に流行った邪気眼属性である。  だが、早速ドロテアが前に出る。 「ご無沙汰しております、姫巫女様!」 「うむ!」  両者、ズビシャア! とポーズを決めて相対し……しばしの沈黙。そして、御互い場所を入れ替わると、改めて違うポーズを決めた。 「ご無沙汰してます、姫巫女様!」 「うむ!」  いやいや、なぜ二度やったし? 立ち位置がどうとか、ポーズがどうとかいいつつ、二人はやりとりを追えるや互いにニヤリと笑った。どうやら、類は友を呼ぶという感じらしい。二人ともどこか得意気だ。 「して、豊穣の。冒険者たちも聞くがよい。エンリーカ王女との件だが、ちと面倒なことになったのでな」 「え……やっぱりじゃあ。戦争に?」 「いや、妾が話を持っていった時にはもう……エンリーカ王女は迷宮に出向いて不在じゃった。なに、これぞ音に聞こえし冒険王女。絶対的な幸運に祝福されし乙女の証よ」  要約すると、会談を持ちかけようと思ったが、エンリーカ王女は迷宮探索に夢中で行方不明だということだ。  つまり、こちらから新たな迷宮に出向いて、直接エンリーカ王女を探して直談判するしかなさそうだ。逆に、ヒロとしては冒険者の生活が馴染んできたのでわかりやすい。 「妾も同行しようぞ。そういう訳で……マギニアへ案内せよ。宿はどこでも構わぬ。頼まれてくれるかや? 豊穣の」 「で、でしたら我らが定宿へ。今宵はささやかながら歓迎の宴を持って迎えましょうぞ!」 「うむ、よしなに」  なんだか、キラキラした目でウカノが見詰めてて、リベルタはズガガガ! とこの光景をスケッチブックに描いている。ヴァインは特にこれといった感慨もないようだったが、彼の視線が警戒心を秘めた眼差しをシェイレーヌに射ているのが、ヒロには少しだけ気になった。