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 ギルド『スノウドロップ』の面々は、フロワロを駆除しつつ慎重に迷宮内を進んだ。そう、迷宮……魔宮の(たぐい)にさえ思える、ここは『ゴウガ竹林』だ。天然の竹が伸びて天を奪い合う、天然のダンジョンである。
 そこかしこにフロワロが咲いていて、遭遇するマモノはどれも強敵だった。

「だ、大丈夫? ナガミツ。えと、んと……サンドイッチを作ってきたのだけど」

 少し開けた場所での小休止で、スズランは今朝皆より早く起きて作った軽食を出す。皆に疲れは見えなかったが、ナガミツはありがたいとばかりに手を伸ばしてきた。
 やはり、戦闘が続けば彼のスタミナは猛烈な勢いで減ってゆくようだった。

「サンキュな、スズラン」
「ううん、いいの。みんなわたしを守ってくれるし、最近はわたしも援護できるから。そ、それで」
「それで? っていうと」
「ど、どうかな、味とか」
「ああ、ちゃんと味ならついてるぜ! 食える食える! 食いごたえがあるな!」

 なぜかマメシバとレオパが大きなため息をついた。
 だが、スズランはあとから知ることになる。ナガミツはかなりの機能不全を起こしており、味覚が正常に働かない時があるそうだ。
 とりあえず、美味そうにサンドイッチを頬張るナガミツの横顔が、スズランには少し嬉しいのだった。
 そして、また危険な探索が始まる。
 体力に注意しながら、丁寧に一つ一つフロワロを駆除していく。
 その合間の戦闘でも、スズランは一生懸命に皆のために歌った。
 気付けば随分奥地へ進んだ、そんな時だった。
 不意にレオパが、突然全員にしゃがむように無言で手をあげる。疑問を持つ間もなく、スズランたちは草陰に身を隠した。

「ど、どうしたんだろう、ね? ナガミツ」
「……人がいやがる。この反応、はっきりとは拾えないが人間の熱源だ」
「え? それって」

 レオパが歩み寄る先に、武装した一団が振り返っていた。その中の隊長と思しき人間が歩み出ると、レオパは慇懃(いんぎん)(こうべ)を垂れながら丁寧なあいさつを投げかけた。

「これはこれは軍人の皆様、お疲れ様です。アイゼン皇国の方々とお見受けしますが」
「ふむ、そういう貴公はハントマンだな? 仲間はどうした、ここは危険な土地だぞ」
「今は手分けしての調査中でして。それより、軍人の皆様がなにをしにこんな場所へ?」

 ズシャリ! と武装した兵士たちが槍を構えた。が、部隊長はリッケンと名乗り、そっと手で部下を制する。その所作は鍛え抜かれた生粋(きっすい)の武人を思わせるものだった。素人のスズランでも、盗み見るその姿が古風ながらも毅然とした武者に見えたのだ。
 リッケンはレオパにそっと小さくささやいた。

「貴公、この当りで不審な人物を見なかったかね?」
「不審な人物、と申しますと」
「……このあたりに、レジスタンスの隠された本拠地があると見ている。レジスタンスはアイゼン皇国、ソウゲン国王に歯向かう大罪人たちの集まりなのだよ」

 どうやら、アイゼン皇国の過酷な身分制度が生み出した反乱勢力、それがレジスタンスらしい。それを知って、スズランは小首を傾げて考え込んでしまう。
 レオパの説明で、アイゼン皇国の内情は知っている。
 しかし、今この竜災害の中で、わざわざ人員を割いてまでやることがレジスタンス探しだろうか? 村のシオンの話では、この迷宮めいた竹林にもドラゴンがひそんでいるかもしれないという。

「馬鹿馬鹿しいぜ、ったく人間はこれだからよ……って、おい待て! 待てって!」

 隣でナガミツが立ち上がった時には、もう遅かった。
 急いでスズランもあとを追ったが、時すでに遅し。
 マメシバが猛烈な勢いでリッケンの前に走り出ていた。その目は、真っ直ぐに素直で純朴な炎が燃え盛っている。彼は正義漢というほどのものではないが、理にかなわぬこと、道理の通らぬことへは自分の信念でブチ当たる気性があった。

「リッケン閣下! それがこの今、国難、エデンの存亡の危機にやることでしょうか!」

 言葉使いこそ丁寧だったが、少年の声は熱く燃えていた。
 すぐに兵士たちが前に出て、無防備に踏み出したマメシバを槍で遮る。
 あっという間にマメシバは、レオパともどもその場に組み伏せられてしまった。
 その時にはもう、走るスズランの真横を疾風(かぜ)が駆け抜けていた。

「おとなしくしろっ! ハントマン風情が……ぬ、ああっ!」
「こいつらの仲間か? なんだ、このローグ!? うわっ!」
「気をつけろ、見た目はボロボロだが相当の手練れだ!」

 兵士たちの槍を次々とナガミツは切り払った。
 そしてそのまま、マメシバとレオパを守りつつナイフを身構える。その隻眼は、周囲を制止するリッケンを睨んでいた。マメシバとはまた違った、凍てつく氷のような無言の憤りが燃えていた。

「諸君、下がってよい。この者たちを放してやれ! 我々の敵はハントマンではない!」

 リッケンは驚くべき統率力で、殺気だった兵士たちの統制を取り戻した。
 それでマメシバとレオパも、ようやくナガミツの左右に立ち上がる。
 だが、剣こそ抜かなかったがマメシバはまだまだ言葉を熱くたぎらせる。

「今こそ民のため、国の総力をあげてドラゴンとフロワロを駆逐する時! それなのに、どうして人間同士が争わねばならないのですか! 閣下」
「……いい目をしているな、少年。あまりにも正論、さながら清水のごとし言だが」

 リッケンは苦悩の顔を一瞬見せ、それを冷徹な軍人のペルソナで覆った。
 彼自身、この作戦行動に納得がいっていないのかもしれない。
 スズランにはわからないが、どうやらナガミツはそれを察したらしい。ナイフを降ろすと、マメシバにも下がるようにそっと言葉を選ぶ。
 だが、それでもマメシバは義憤を隠そうともしなかった。

「私もアイゼン皇国の将、国王の命とあらば逆らうわけにもいかんのだよ」
「……ここにくるまで、誰にも会わなかった! もし本拠地があるなら、今頃レジスタンスは全滅している。これだけのフロワロがあって、マモノも凶暴化してるから」
「ふむ、貴公の言う通りだな。少年、不快な思いをさせてしまった。どうか許してほしい……総員、撤退する! なお、帰路のフロワロはこれを各自徹底して排除すること!」

 リッケンは最後に、部隊の持つ薬やアイテムを分配して、それを無償でスズランたちに分けてくれた。どうやら、悪い人物ではないらしいが、なにかとしがらみも多そうだ。
 アイゼン皇国は武人の国、しかし一方で貧民たちは毎日ひもじい日々を送っている。
 そんな中での、この竜災害である。
 こんな時こそ、エデンの全ての人々が団結しなければいけないとは思う。
 同時に、こんな時でも以前からの分断を埋められないのが人間とも言えた。

「おーおー、行っちまった……大丈夫か、マメシバ。レオパも」
「ええ、私は平気ですが。マメシバ?」
「なんでこんな……あの人だってわかってるはずなのに、な。なんか、うまくいってないみたいだなあ、アイゼン皇国は」

 寂しそうに笑って、ようやくマメシバはいつもの顔を取り戻した。
 そんな一行を呼ぶように。密林の奥から竜の絶叫が迸る。間違いない、この奥にすでにドラゴンが巣食っている。瞬時に皆が皆、ハントマンとして緊張感を張り巡らせるのだった。

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