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 ナガミツたちはしばしの休養を終えて、再びプレロマに戻ってきた。まだまだ竜災害はこの地球……エデンと呼ばれる星を(むしば)んでいる。戦力の回復も大事な仕事だが、それを言い訳に安穏とした日々を享受(きょうじゅ)するわけにはいかなかった。
 そして、プレロマでナガミツを待っていたエメルは次のミッションを発動させた。

「うーむ、なんだ、その……これ、CDだよなあ」

 飛空艇で移動中のナガミツは、エメルから受けとった最重要機密を手にもてあそぶ。船は今、ロラッカ山洞に向かっていた。どうやら、この遺物を使うことで新しい道が開かれるらしい。
 だが、西暦を生きていた21世紀のナガミツには、そのオーパーツはCDにしか見えなかった。だが、これが次なる帝竜インビジブルを倒す鍵になるとなると、自然と扱いが慎重になる
 そんなナガミツに、おどおどと声をかけてくれる少女がいた。

「あ、あの、ナガミツ……それ、大事なもの、だよね?」

 スズランだ。
 彼女は遠慮がちに隣に座ると、ナガミツが指で回す円盤を見詰めた。
 ナガミツには平凡なCDに見えるが、スズランには不思議なアイテムに見えるらしい。それもそうだと思って、そっとナガミツはスズランに円盤を差し出す。

「え、あ、あああっ! ナガミツ、これは次の戦いで必要になる――」
「割れたり壊れたりしねえよ。本当はな……これはお前みたいな奴の結晶なんだ」
「え……? プリンセス、の、結晶? なんですか?」
「そうだぜ? もっとも、今のエデンでは聴くことができねえ」

 それはもう、プレイヤーが全くないエデンの時代で、辛うじて残った『虹色の円盤』
でしかなかった。だが、それが帝竜討伐に必要な決定打だとエメルは確信していた。
 エメルの判断をナガミツは疑ったことがない。
 正直、ぶっきらぼうで無感情、不愛想な自分を棚に上げても、エメルはコミュニケーション能力が枯渇してると思っていた。それでも、大事なことは伝わっていたし、エメルというヒュプノスには不可思議な信頼を感じていた。

「この、キラキラした板が……音楽なの?」
「まあ、そうだな、俺の生まれた時代は、あらゆる文化がこの円盤に込められた」
「あらゆる文明……? 演劇や映画、スポーツや演芸も?」
「そうだ。だが、記録はこうして残っても……再生する媒体が消えちまった」

 それでも、ナガミツが手渡せばスズランは両手でうやうやしく受けとる。その小さな円盤を光にかざして、大切に思うように胸に抱きしめた。

「……ここに、太古の音楽、歌や詩篇(しへん)がつまっているんですね」
「ま、そんな感じだ。今は帝竜インビジブル討伐のための鍵だけどな」
「こんなにキラキラした鏡のような……大昔の人はどんな想いを込めて」
「そうだな。太古の昔は、この円盤が何万枚も売れたんだぜ」
「えっ! これが買えるんですか! 売られてて何万枚も……!?」

 静かに()いだ空を飛空艇は進む。
 そのデッキに座り込んで、ナガミツはスズランと肩で接していた。それがお互いにとって、密着とも思えたし、たんなるふれあいにも思えてていた。お互いがそれでいいと思ってたのだけが、両者の共有しえる見えない想いだった。

「……でも、不思議なんですナガミツ」
「ん、どうしたスズラン」
「この板、この円盤から……不思議と聴こえなくて見えない音が伝わってくるんです」

 妙な感性だと思った
 それをナガミツは否定しなかった。
 むしろ、懐かしさを感じた。
 少しすすけてるCDを手に、立ち上がるスズランが歌う。
 それは、今の気持ちとこれからの決意を歌う響き。
 なのに、ナガミツには懐かしく感じて一瞬全身の痛みを忘れた。

「……ChRoNiClESeVeN」
「えっ? ナガミツ、それは」
「わからねえ、けど俺のメモリにその名が刻み込まれてる。だから」
「この歌は、ChRoNiClESeVeN……」
「この歌は人類賛歌、そしてお前の歌だ」

 ナガミツには妙にも思えた、実は、ナガミツもこの歌を聴いたことがない。それなのに、スズランが歌う声に気持ちが吸い込まれる。想いが飲み込まれる、そういうレベルの奇妙な一体感が感じられた。
 そして、その向こう側に一人の少女を感じる。
 想いを通わせ身体を重ねた、あの少女が脳裏に浮かんだ。
 そして今、その全てを歌うスズランの前でナガミツは目元を手の甲で拭う。

「ナ、ナガミツ! ごめんなさい、わたしなんだか勝手に歌が溢れて」
「いいぜ、いい。凄くよかったぜ……なあ、スズラン」
「は、はいいぃ!」
「歌ってくれ、歌い続けてくれ……」

 ナガミツの言葉に、戸惑いつつもスズランが歌を続ける。
 それを聴いて心身を委ねれば、不思議とナガミツをやすらぎが包んだ。今のナガミツは、燃え尽きる前に一際強く輝く蝋燭(ろうそく)の炎だ。
 そのナガミツが、知らない歌を覚えていた。
 CDを手にしたスズランは、読めない情報を拾って集めるように歌う。
 気付けばアダヒメやキリコ、マメシバたち全員が甲板の上で耳を傾けていた。
 スズランが歌い終えると、真っ先に駆け寄ったアダヒメが彼女を抱きしめる。

「ア、アダヒメ様!? あの、わたしは」
「ベネッ! ひじょーにっ、ベネでしてよ!」
「え、えと」
「不思議な歌です。なにか光がさしたような……無限にループするメビウスの輪の、そのねじれが解けたような高揚感。わたしがこんな気持ちになるのは初めてです」

 他の面々も、うんうんと頷く。
 ああそうかとナガミツは、直感的に感じた。
 スズランの今の歌は、未来……それも、この先とは別の明日に繋がっている。確証もなく説明もできないが、聴くだけでナガミツにはそれがぼんやりと感じられた。
 だが、アダヒメはよしよしとスズランの頭を撫でながら妙なことを言う。

「これが……この歌が恐らくは、終わりの始まり。なぜCDを手にしただけでスズランが歌えたか、それはわかりません。でも、これはわたしにとっても終わりの始まり」
「……アダヒメ様がそうおっしゃるなら、そうかもしれません。でも」

 愛おしげにスズランは光るCDを胸に抱くと、天を仰いで目を細めた。
 まるで、自分の心にCDの見えなく読めない全てを妬き付けるような姿だった。

「アダヒメ様。みんなも。――わたしにはこうも思えるのです」

 ――終わりの始まりはいつか、始まるために終わる旅。
 この歌が今、自分たちの竜を狩る旅路の終焉(しゅうえん)と、その先の再世を謳っているのだとスズランはいう。だからまた、噛み締めるように再度歌い出す。
 その歌声が、雲を引く飛空艇から風になって零れる。
 ハミングを重ねるアダヒメが微笑みながら涙をぬぐっていた。

「妙な歌だが悪かねえ……まってろよ、帝竜インビジブル。手前(てめ)ぇをブチのめして、次は真竜だ」

 自分の中の命が燃え上がる。こんな様になってようやく、命を知識ではなく実感で感じられた。
 ただ、ナガミツはふと心配事を思い出した。
 例の、自分たちを影と呼ぶチサキたち、そしてエリヤだ。彼女たちは真竜が出たと告げたっきり接触も連絡もない。まさかとは思うが、今のナガミツには無事を祈るしかない。
 今は目の前の帝竜インビジブルに集中する。
 だから、敢えて考えないようにしていた……その真竜が今、このエデンにすでに顕現している。エリヤとビャッコたちなら大丈夫にも思えたが、言葉にしようもない妙な不安が胸から消えないのだった

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