マッフ少年は緊張に凍っていた。
今、恐るべき魔物が巣食う中へと、全力で挑まねばならないのだ。
スノードリフト討伐、それが仲間と引き受けたクエストだ。
そして、その仲間たちはといえば緊張感がまるで感じられない。
「エイダード、この間はサンキュな。まひろ、元気になったみたいだぜ」
「そういうのはホント、お前がやれよな……俺の柄じゃない」
「でも、相変わらずやらかし女王様ですネ! 前より思慮深くはなりましたが」
扉の向こうは既に戦場、一歩踏み出せば死が待ち受けているのに。それなのに、ヴァインもエイダードもリラックスしているし、ライトニングもいつもの涼やかな笑顔だ。
それも当然だ。
彼らは一流の兵士であり、戦士であり、騎士だから。
なんとか落ち着こうと思っていると、突然背後から頭をポンポンと撫でられた。
「そう固くなることはないよ、少年」
「マイカ先生……で、でも」
「彼らが一流であっても、私がそこそこの術師……まあ、本業は技師なんだけど。あと、キミがまだまだの医者であってもね」
ぐっと身を寄せてくるマイカから、ふわりとほのかにいい香りが伝わる。
マッフを取り巻く冷たい空気が、小さく優しく震えた。
「ここではみんな、みーんなただの冒険者さ。気楽にいこう、ね?」
「は、はい……頑張ります!」
「じゃ、始めようか少年。みんなもいい?」
三者が三様に返事を返して、それぞれの武器を身構えた。
生半可な冒険者では返り討ちにあうし、まだ生きて出てきた者はいないからだ。
それでも討伐の依頼を引き受けたし、ターヴュランスとストラトスフィア、この二つのギルドならばと探索司令部も許可を下したのである。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……準備いいか? エイダード。ニングも」
「ん、問題ない。……狼が出ると聞いているが」
「んー、僕の記憶では白い大虎だったような? ま、いいでしょう。ドーンと行きましょうねー!」
有言実行、ドーン! とライトニングが扉を
即座に五人の冒険者が転がり込む。
たちまちマッフを、むせ返るような
遮蔽物をうまく使って、その監視の目をヴァインがかいくぐる。
エイダードやライトニングもそれにならい、マッフもなんとか食らいついていった。
が、背後で違和感しかない声がのほほんと響く。
「ああっと、しまった。……目が合っちゃった。みんな、ごめーん」
そう、どうやら周囲を巡回する手下の肉食獣に発見されてしまったらしい。
すぐに遠吠えが連鎖して、牙が牙を呼んでくる。
だが、マッフ以外は誰も動じたりはしなかった。
「もー、先生。なにやってるんですか」
「いや、だってね、ニング君。シンジュクで聞いた話じゃ、ネコ科だったような」
「どう見てもイヌ科、ってか狼だろあれ!」
「囲もうとしてきてるな。ま、いい。進もう」
すぐに五人は走り出す。
その先に、ひときわ巨体を誇る怪物が振り返った。
間違いない、あれが噂の危険な魔物、スノードリフトだ。マッフにはそれが、巨大な狼に見えた。血走る瞳に怒りを燃やして、殺意で周囲に仲間たちを集めている。
マッフは改めて、走りながら鞄の中の薬品をチェックする。
そうしてあとは、両手で杖を強く握って必死で走った。

「しっかりしなきゃ……冒険者だろ! しっかり稼いで、もっといろんな医術を勉強するんだろ!」
自分を
ヴァインの正確無比な射撃が、効率よく直前上の邪魔な敵だけを射抜いていた。
同時に、ライトニングが足を止めて号令を発した。
「背中はお任せを。ではでは皆様、闘争の開幕といきましょう」
身体が熱くなって、血潮が燃える。
それなのに、マッフの意識は研ぎ澄まされていった。
ライトニングの号令によって、一時的に身体能力が強化されたのだ。
そして、銃声で切り開かれた道を矢のように真っ直ぐエイダードが馳せる。
当然、背後の敵はライトニングが防いでいてくれた。
「おい、エイダード!」
「頭、だな」
「っし、任せな!」
「あとは、ただ刺し貫くのみ」
スノードリフトが
同時に、小さく吠えたスノードリフトが押し黙る。
頭を封じた形になったが、牙を取られても敵には巨大な四肢と爪があった。
なにより、徐々に周囲の魔物も増えてゆく。
「次は腕、っていうか前足だな」
バラバラとリボルバーの
その時にはもう、距離を詰めたエイダードの槍がスノードリフトを捉えていた。
だが、全力の刺突を身に受けてもまだ、スノードリフトが反撃の爪を繰り出してくる。組み付かれるような形になったが、それでも彼は圧してくる巨獣に力で抗った。
エイダードの足元が陥没し、彼自身も徐々に圧縮されてゆく。
だが、ハイランダーとして鍛えられた彼の精神力は冷静さを保っていた。
「……ちと浅かったか。周囲は……チッ、まずいな」
時間が経つほどに状況は悪くなる。
それがわかるから、マッフも必死に走った。
「エイダードさんっ、援護します!」
恐怖を噛み締め飲み込んで、大上段に杖を振り上げる。人によっては鈍器としての性能を重視する者もいるが、マッフの握りしめる杖は戦闘用ではない。
それでも、彼にとっては医療の技術と同等の武器、駆使して戦うための道具だった。
狙いを定めて、エイダードにのしかかるスノードリフトの脳天へと杖を振り下ろす。
「あ、当たった!」
「ん、少し勢いが……敵の気迫が弱まった。チャンスだ、誰か俺に五秒くれ」
杖による近接戦闘の訓練も、一応はしてある。相手の守りを緩ませる打撃や、
そして、それが無駄ではないと実感した瞬間、炎が走る。
「オーラーイ、五秒ね、五秒。足止め程度でも、ちょーっと強火でいこうか」
先程のマッフの打撃が、属性攻撃への耐性を下げている。
絶叫を発する口を封じられたまま、火だるまになってスノードリフトが荒れ狂う。敵も必死、その爪が仲間ごとマッフたちを
が、誓いの魔槍が戦いに終止符を
「捉えた……刺し貫けっ、ゲイッ! ボルグッ!」
エイダードの