大地の化身、その名はジ・アース。
かつてナガミツが対峙した巨竜とはまるでスケールの違う
ただ動くだけで、その身を覆っていた岩石や土砂が降り注ぐ。
その中で今、ナガミツはナイフを身構え仲間たちと立ち向かった。
「ノリト! ニーナを援護しに戻ってくれ。キリ、お前はさらに突っ込んでアダヒメんとこまで戻れるな? ここは俺たちで!」
まるで月か太陽か、空に血走る巨大な竜の瞳。その残忍な光と共に、
あっという間に崖が崩れて、ハントマンたちは宙へと身を躍らせる。
だが、ナガミツがスズランを守るように、レオパを担ぎながらマメシバが馳せる。
落ちゆく落石を
「やってやれっ、レオパ! どんだけ図体がでかくたって!」
「……ええ。新薬を試しましょう。巨象を前に
荒れ狂う空気の中、ジ・アースの巨大な頭部が周囲を破壊しながら暴れまわる。その鼻先に降り立ったレオパは、
厳重に封印された、そのラベルやお札を取り払ってコルクを開封する。
瞬間、空中に身を投げ出しつつレオパはそれをジ・アースに叩きつけた。
「マメシバ、着地を頼みます。さあ……この毒は特別ですよ? 腐食の毒素に身を焼かれなさい。全ての竜は、そう――全ての竜は、我々が狩り尽く、お? ぐ、ほわーっ!?」
キメ顔だったレオパが、必死の形相でマメシバに運ばれてゆく。空中で彼をキャッチしたマメシバは、そのまま舞い散る瓦礫の中を上昇してゆく。
あれは恐らく、どんなジェットコースターよりも危険で恐ろしいだろう。
そんな遊具すら知らないレオパは、慎重かつ大胆なマメシバの機動に引きずられて消えた。その視界がクリアになったところで、ナガミツもスズランを抱いて駆け上る。
「チャンスは一瞬だ、スズラン! お前の声を、歌をくれ!」
「は、ははは、はいっ!」
「歌ってくれ、スズラン……お前の歌を、お前だけの歌を。俺に思い出させてくれ……去りし日の力を、奴らと共に馳せたあの日の力を!」
――響き渡るはSeveneth-Heaven。
かつて狩る者と呼ばれた
スズランの声は、今このエデンに暮らす人間すべてに響く歌だった。
同時に、ナガミツはジ・アースの頭部の、その上を取る。
「ナガミツ、わたしは大丈夫。放しても、大丈夫」
「おう! 怪我なんかすんじゃねーぞ? マメシバとレオパはあの位置か。なら!」
「わたし、あの二人の道を作るね。難しいけど、駄目じゃない。無茶だけど、無理じゃ、ないっ!」
ナガミツはスズランを手放すと同時に、ジ・アースの額にナイフを突き立てた。
全身がバラバラになりそうな感覚。
だが、ナガミツは強く強く刀身を巨躯の頭部に押し込めてゆく。
希望の光が背を押したのは、今まさに窮地での勝負に挑んでいたその時だった。
「マメシバ、レオパも……足場は、わたしが作るっ」
「いいですね、ではマメシバ。これは先程の、ええ、ほんのお返しです。――そぉい!」
「え、あ、ちょっと待って! なんで俺が――ぐわあああああっ!」
スズランの絶妙な鞭さばきが、空に見えない岩石の階段を生み出していた。その上を、ホップ、ステップ、ジャンプの要領でレオパが走り抜ける。彼は、先程とは逆に自分が抱えたマメシバを、全力でブン投げた。
それを見た次の瞬間には、ナガミツはナイフを引き抜き離脱する。
巨大な災害レベルの竜の、その額に刻まれた小さな傷。
そこに今、ナイトの必殺の一撃が振り下ろされた。
「ちょ、わ、あわわっ! ――あーもぉ、恰好つかないな! でもっ!」
盾を捨てたマメシバが、両手で高々と大上段に剣を構える。
そのまま彼は、彗星のようにジ・アースの真正面に落ちていった。
光の尾を引く流星の如く、渾身の一撃をふりかぶる。
それは狙いたがわず、ジ・アースに刻まれたナガミツの一撃をなぞった。
インパクト、その瞬間に激流のように鮮血が天に打ちあがった。会心の一撃、マメシバのセイブ・ザ・クィーンがジ・アースの脳天を両断したのだ。
真っ赤な逆流する滝を背に、ナガミツは仲間たちの身を確認しつつスズランを抱き留める。空中でもがいていた彼女は、ナガミツの両腕の中でかすかに頬を染めた、
恐らく、極度の緊張感から解放されたことによる安堵の気持ちだとナガミツは思った。
そして、この星の真の名を冠する帝竜は倒れた。
「っしゃあ! ナイスアシストだったよ、レオパ! 毒もめっちゃ効いてた」
「それはいいんですがね、マメシバ……よければ私の顔から尻をどけてくれませんか」
皆が無事だった。
そして、土煙が
キリコにアダヒメ、そしてニーナもノリトも疲労困憊のようだったが無事だった。
「むいっ! 尻尾は手刀で斬ったです! なぜかなぜだか、我が家には『竜の尻尾は斬って、役目でしょ』という言い伝えがあるのです!」
「とてもいい歌でしたわ、スズラン。また一つ、
「レオパ……無事ですか? あの、この両ギルド……ヒーラーの扱い、ブラックじゃないですか? でも、おかげで嫌な記憶を少し思い出しました……」
「なに言ってんだぜー、ノリトくん? こんなの、西暦の時代に比べたらよゆーだよ、よゆー!」
皆の無事と、信じられぬ辛勝の中で、気付けばナガミツもはにかんでいた。
失われゆく身体能力と入れ違いに、どんどん人間のことが好きになってゆく。人間の中に溶け込んで行ける。その入り口だった少女がもういなくても、ナガミツは今日も勝利の余韻を愛すべき仲間たちと共有して拳に親指を立てるのだった。