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「ちょっとメル、いっちゃん…あのコ、貴女達の御知り合いですの?」

 日課のイャンクック討伐を終えて。二人並んで仲良く、酒場へと足を踏み入れるメルとイザヨイ。彼女達を見つけるなり、カウンターに座る女将が気だるげに声を掛けてきた。半ば呆れた顔で指差す先には、酒瓶の山に囲まれたハンターの後姿。ここはミナガルデ、メリーF地区4丁目…狩人達の集う宿、山猫亭。

「ん、あれってもしかして…」
「うん…ココット村から出て来たのかな?でも一人だよ?」

 お互い顔を見合わせ、心当たりの欠片を持ち寄る二人。恐らく絶対、多分間違い無い…メルとイザヨイの脳裏を過ぎるのは同一人物。泣きながら自棄酒を煽る女性へ、二人は渋々声を掛ける…ように互いへ促した。

「いっちゃん声掛けなよ…ほら、仲良かったじゃん。髪の色一緒だし」
「それは関係ないでしょ?メルこそ懐かれてたじゃない…ほら、早く」

 譲り合う様に押し付け合いながら、ツンツンと肘で突付きあって。心底嫌という程ではないし、寧ろ何事かと思う…どちらかと言えば心配。件の人物は大雑把な性格で裏表が無く、ドジでノロマなカメだが憎めない。ただ惜しむらくは、居るだけで禍災を呼ぶ真性のトラブルメーカーである事か。

「てゆかさ、いっちゃん…あれ、なんでインナーしか着てないんだろね」
「さぁ…思い当たる節がありすぎて解らない、かな?」
「ぷはーっ!こゆ時ぁ呑むに限るッス!女将、おかわ…り?お?おおっ!」

 ジョッキを片手に、青髪の少女が振り向いた。その両の眼が捉えるのは、唖然と硬直するメルとイザヨイ。引きつる顔の二人を見るなり、彼女は涙ぐんで飛び込んで来た。逃げようと踵を返す二人は、たちまち捕まり抱き寄せられる。

「めるめるー!いっちゃーん!会いたかったッスよぉぉぉぉっ!もうね、ホントね…グスッ」

 止まる呼吸で真っ赤な顔が、やがて血の気も引いて青くなっても…二人の首をきつく抱き締め、振り回しながら彼女は泣く。放せ馬鹿サンク…呻くような声をメルが搾り出すと、やっと二人は解放された。涙と鼻水でグシャグシャの知己、サンクから。咳き込むイザヨイは素早く避けたが、再度の抱擁に捕まるメル。

「わわ、ちょっと…何?どしたん?…ってかサンク、何で一人なイタタタ、痛いって」
「そうそう、サンちゃん…私もちょっと気になったんだけど。クリオさんは?」
「うっ、う…ううう…ヒック!先輩は自分を庇って、焔龍に…うう、うぇぇぇぇん!」

 骨の軋む音と共に、半ば朦朧と遠のく意識の果てで。しかしメルは、自身が慕う先輩ハンターに何かあったと知るや、束縛の腕を振り払った。逆に頭一つ半程も背の高いサンクへ詰め寄ると、厳しい口調で詰め寄る。

「ちょとサンク!…クリオさんどしたの!?あんたパートナーでしょ…何やってたのさ!」
「う、うむス…その、先輩は…この間焔龍リオレウスに右腕を喰い千切られて…引退したッス」
「…命に別状は無いのね?ちょっとサンちゃん、驚かさないで…ってか私の裾で鼻かまないで」

 それは百戦錬磨の狩人の名。メルやサンクが育ったあの村で、誰よりも火薬と硝煙に愛された者。この街ですら高名を耳にする、誰もが敬い称えるベテランガンナー。内心二人は、危険度の高い銘入の飛竜の名を聞いた時…その命が永遠に失われてしまったような気がしてうろたえたのだ。

「そか…じゃ、サンク。こんどはアンタが恩返ししなきゃ…立派なハンターになってさ」
「そそ、片腕じゃこの業界で生きてけないけど。サンちゃんが今度は頑張る番じゃない」
「いや、あの、その…自分駄目ッスよ。先輩はずっと側に居ろって言ったけど…実は先輩は…」

 結婚するんス。その言葉に二人は耳を疑った。"何故?"ではない…寧ろ抱いたのは"どうやって?"という素朴な疑問。常に一流ハンターであり続ける代わりに、おおよそ女性らしさとは無縁な生活を送っていたあの人が?焔龍リオレウスに不覚を取った事よりも、それは何倍もショッキングな話だ。そしてメルやイザヨイの何倍もショックを受けてるのは、恐らくは眼前でオイオイ泣きじゃくる少女…クリオのパートナーだったサンクなのだ。

「ふむふむ、それで罪悪感と疎外感を感じて、ココット村を飛び出してきたと…裸で」
「ま、しょがないね。サンク、これからは独り立ちして、このミナガルデで立派なハンターに…」

 あれやこれや喚きながら、サンクはそのまま泣き叫んで崩れ落ちる。やれ、新郎のプロポーズの言葉は"キミの左腕が残って良かった…この指輪を付ける薬指が残るから"だったとか。やれ、右腕のないリハビリ生活を二人三脚のアツアツで過しているとか。やれ、新しい暮らしの為にボウガンから何から全部売り払ってしまったとか。

「もう自分、この街で生きるしかないッスよ!って訳でめるめる、いっちゃん…ヨロシクッス!」

 ずびびと鼻をすすると、サンクは緩い泣き笑いを浮かべて二人を見上げる。苦笑して溜息を付くメルとイザヨイは、地べたにへたり込む彼女に、優しく手を差し伸べた。
 この日、またミナガルデのギルドに名を連ねる一人の新米ハンター…それは生まれては消えゆく、名も無き狩人の一人に過ぎないが。その身一つに武器を携え、危険な飛竜へと挑む者達…人は彼等彼女等を、畏敬の念をこめてこう呼んだ。モンスターハンター、と。

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