決戦の火ぶたが切って落とされた。
ジルベルトは全力で走りながら、肩越しに振り返る。
吼え荒ぶ巨大な魔物に対して、友の背はあまりにも小さかった。
だが、リベルタの構える砲剣は今、かつてない高音域に震えている。まるで乙女が
「まずは、炎でいってみっかよ! ッ、ラアアアアア!」
リベルタの斬撃が逆巻く業火を呼ぶ。
だが、大いなる背甲獣はびくともしない。その鱗と甲殻を、僅かに
走りながらジルベルトは祈った。
巨大な怪獣とはいえ、生命を灯した魔物であることに変わりはない。
ならば、倒せぬ道理はない。
「チッ、んじゃあ氷はどうだっ!」
突然の吹雪を感じて、背中のマントが気圧差に
ユーティスに向かって走る中、強烈な冷気が背を追い越してゆく。
だが、巨影はゆらぐことなく、まるでそよ風を受けるがごとしだ。
「ヒロ、見てください……全く攻撃が通りません!」
「い、今はユーティスさんと合流するんだ! 五人でなら」
「そう、五人でなら……待ってて、リベルタ!」
衝撃と振動がここまで伝わってくる。
巨大な質量が一人の少女を追い込み、徐々に追い詰めていく気配が伝わった。
それでもジルベルトは、リベルタを信じて走る。
すぐにユーティスと合流できたが、彼も
「あ、あねさま……ジル。私は大丈夫です、それよりリベルタが」
「わかってる! 酷い傷……戦える?」
「継戦能力に問題はありません。戦闘可能です」
すぐにヒロが応急処置を施す。
その時にはもう、自分が持つアイテムも兄に託してウカノは
イクサビトの強靭な脚力が、彼女を弾丸のように広場の中央へと押し出す。
「わたしだけでも援護をっ!」
「うん、先行して! ウカノちゃん。足を封じてくれればリベルタも……お願いね!」
眩い稲光が走ったのは、その瞬間だった。
ウカノの背を目で追えば、巨大な雷の柱が屹立していた。
同時に、飛びのいたリベルタの砲剣がバシュッ! と各所を展開して排熱モードに変形する。白煙を吐き出しすぐに元にもどったが、その刀身は真っ赤に
三属性のドライブ、三連撃。
その全てを真っ正面から受けて
僅かにその動きは鈍っていたが、どうやらこれといった弱点を持たぬ敵らしい。
「リベルタ、わたしも加勢しますっ! 一度下がって」
「ん、お願い。アチチ、こーなると弱いんだよなあ、帝国騎士ってやつは」
砲剣と呼ばれる特殊な刃を用いて、一撃必殺のドライブを放つインペリアル。その弱点は、砲剣のオーバーヒートである。今のリベルタが構えているのは、ただの熱に呻く重いだけの大剣だった。
それでも彼女は、前面に躍り出るウカノのフォローに走る。
ジルベルトもユーティスを気遣いつつ、ヒロと共に戦場へ駆けつけた。
「お待たせ、リベルタ!」
「お怪我はありませんか? リベルタ」
「いやいや、ユーティスあんたさ……そっちの方がボロボロじゃんね」
ヒロもうんうんと頷く。
改めてジルベルトは剣を抜く。
仲間が五人そろえば、勝機は必ず見えてくる筈だ。
いつもそうだが、自然とジルベルトがリーダーの才覚を叫ぶ。
「足を止めずに走って、
「ストックがまだ十分にあります。ここはまず、毒を試してみるのが効果的かと」
「アタシはちょっとクールタイム! でも、背中はまかされたよん!」
いつもの呼吸で五人はそれぞれ別々に走り出す。
その一瞬あとに、
大いなる背甲獣は、その口から漆黒の焔を解き放った。あっという間に大広間が火の海になって、チリチリとジルベルトの全身を
これでうかつに近付けなくなった。
この密閉空間はある程度の広さがあるが、こうも炎を広げられては自由が奪われる。
それでも、ヒロの落ち着いた狙撃が二発、三発と足を狙って放たれた。
「ヒロ、そのまま! 撃ち続けてください!」
「わわっ、ウカノ!? 射線に割り込んだら危な――」
「こっちで避けます! ……ヒロの気配なら、どれだけ離れてても」
巨大な爪が振るわれる中を、ダッキングで避けつつウカノが距離を詰める。援護射撃の弾丸が、彼女を掠めて敵へと吸い込まれていった。
そして、絶叫で尾を振り回転する、その巨躯へとウカノは肉薄した。
そこからはもう、彼女の距離だった。
「
綺麗に左右のワンツーパンチから、膝蹴りを放つ。
ウカノが狙ったのは敵の巨大な足、そのつま先だ。見るからに鋭く光る爪がひび割れ、砕けて初めて血が舞った。
やはりジルベルトの予想は正しかった。
あらゆる属性が効かず、ドライブの連射に耐えようとも……やはり魔物も生物、命なのだ。
まとわりつくウカノを嫌がるように、再び暗黒のブレスが空気を沸騰させる。
だが、その動きは明らかに先程より鈍っていた。
片足の爪が砕かれ、その痛みが不快そうな唸り声をあげさせている。
その時にはもう、反撃の爪を避けたウカノが天井まで飛び上がる。

「次っ、頭! 全力でっ、蹴り抜ける!」
身を捩ったウカノの、その全身がバネになる。そのまま凝縮された力が回し蹴りとなって炸裂した。脳天を蹴られた衝撃で、ぐらりと巨体が揺らいだ。
ぐるりと拳大の瞳が揺れる。
それを見逃すヒロではなかった。
「今だねっ! 秋葉だったらハイスコア更新物だよ、まったく!」
ヒロの射撃は正確に二発、大いなる背甲獣の片目を
またも
これで恐らく、足と頭を封じられた筈だ。
その証拠に、棒立ちになってその場で暴れるも、例の炎を吐き出さなくなった。振り回す剛腕も尾も、でたらめに周囲を薙ぎ払っている。
千載一遇のチャンスに、今がその時とばかりジルベルトは突撃した。
だが、不意に隣のユーティスがそっと身を寄せてくる。
「ジル、警戒を……新たな熱源反応が二つ。やつの背後に」
「えっ? ――くっ、またこのパターン! みんな、気をつけて! 敵の増援!」
邪悪な気配がぬるりと床から立ち上がる。
その姿を視認した瞬間、あっという間にジルベルトたちは闇の中へと放り込まれてしまうのだった。