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 最後に発見された文献、それはレムリア群島の地図だった。
 今までカラブローネたちが踏破してきた、東土ノ霊堂と真南ノ霊堂が記載されている。そして、さらに二つ……まだまだ続く旅の先に、同じ霊堂を指し示すマークが書き込まれている。
 恐らく、この東西南北全てに霊堂が存在し、その中心に世界樹があるのだろう。
 だが、それよりもカラブローネは仔細をミュラーに報告した時の話が気になっていた。

「鈴の音、ねえ……はーっ、こりゃまた面倒なことじゃないかねえ」

 今、クワシルの酒場でカラブローネは夕食中だ。珍しい東方の酒を片手に、フォークでサラダのブロッコリーを突っついている。珍しく一人だが、だからこそ黙考の静かな時間が持てたし、それも煮詰まり始めていたところである。
 ペルセフォネ王女はいまだ病床に()せっている。
 そして、衛兵の何人かが以前、不審な鈴の音を聴いたというのだ。

「まいったねえ、これ……まさか、カースメーカー案件だったりするんじゃ、はぁ」

 活気に沸く店内の片隅で、何度目かのため息がこぼれ出る。
 背後に人影が立ったのは、そんな時だった。

「うす。お疲れ様、おいちゃん」
「ど、ども。ご一緒していいですか?」
「よければ是非、よろしくお願いしますね」
「そして、なにか考え事ですか? なら、情報屋の出番でしょう」

 一気ににぎやかになって、カラブローネはしめたとばかりににんまり笑う。席を薦められて座るのは、エイダード、ヒロ、ヴィラール、そしてザッシュだ。
 珍しい組み合わせだと思ったが、もともとは二人と二人だったという。

「オレとヴィラールは、古書店とかを一緒に回ったりしてて」
「マギニアには本当に、なんでもありますね。骨董品やなんかを少々」
「文化や文明レベルは全然違うけど、こう、ちょっと秋葉原を思いだしましたよ」

 陰キャ同士、仲が良くて大変にめでたい。
 だが、エイダードとザッシュは真逆になかなか物騒な話だった。

「花街に出かけたんだが、まあ、その、なんだ」
「目当ての女性が被ってしまったのさ。それで」
「しかも、すでに別の男が指名してしまってて」
「つまらないからやけ酒でもキメようかって話なんですよ、フフフ」

 二人はまるで、遊園地で観覧車に乗り損ねたような笑みを浮かべて肩をすくめる。無邪気だが、内心は甘い一夜を想像していたらしい。空振りに終わったが、きっと一杯やったらまた行くなこれは、とカラブローネは苦笑を返した。

「で? カースメーカーってなんです? おいちゃん。直訳すれば……呪い職人?」
「説明しよう、ヒロ。カースメーカーは冒険者ギルドに正式に認められた職業の一種さ」

 饒舌(じょうぜつ)にザッシュが語り始めたので、ぬるりとカラブローネは説明から逃げる。
 カースメーカー、それは主にエトリアやハイ・ラガートを中心に活動する冒険者たちの職能の一つだ。文字通り、ヒロが言うように呪いの力を行使して戦う。高レベルのカースメーカーともなれば、我が身を削って瀕死の痛みを相手へとなすりつけることもできるという。マイナーだが極めれば恐ろしい力を発揮する職業なのだった。

「で、カースメーカーたちは呪いのきっかけに鈴なんかを使ったりする。ですよね? おいちゃん」
「説明ありがとよ、ザッシュ。まあ、酒でも料理でも頼みなさいヨ。ちょっぴりだけおごってあげよう」

 その時にはもう、名物の店主が自らワーッハッハ! と注文を取りに来ていた。エイダードが素早く四人分の酒を注文して、料理は適当に出してくれるようオーダーした。
 店主のクワシルが笑えないジョークを飛ばして去ると、念のためカラブローネは周囲を見渡す。こちらをうかがう気配は察知できず、皆が酒と音楽に気持ちよく酔っているらしい。
 それで、今日のミュラーの話を全員にうちあける。

「鈴の音……それがペルセフォネ王女の御病気となにか関係が?」
「なるほど、カースメーカーなら病の呪いも思うがままだな」

 そう、最近ドクトルマグスの技を習得したカラブローネだからこそ、二人の言葉に大きく頷かざるを得ない。問題は、どこの誰がカースメーカーを使って王女を(おとし)めているのか、という話だった。

「まず、黒幕がいると見て間違いないでしょうね」
「ならザッシュ、真っ先に思い浮かぶのはどこだね? ん?」
「マギニアに害なすならば、この時期は……海の一族」
「おいおい、お前さん。自分でも思ってないようなことを言いなさんな」
「ばれましたか。でも、真っ先にこの可能性を潰しておくとしましょう」

 酒が運ばれてきたので、乾杯を挟んでカラブローネは話を続ける。恐らくザッシュも、自分で言ってはみても信じていない。その確証があるからあえて真っ先に海の一族を名指ししたようだった。

「確かに海の一族は現在、敵対組織でもある。けどねえ、あの冒険王女エンリーカがこんな小癪(こしゃく)な真似をすると思うかい?」
「ですね。彼女の気質は小細工を(ろう)するにはあまりに漢気(おとこぎ)がありすぎる」
「黙ってりゃかわいい顔してるんだけどネ」

 海の一族そのものとはなかなか折り合えない関係が続いているが、エンリーカ個人との人間関係は良好である。その証拠にシェイレーヌが冒険を手伝ってくれるし、エンリーカ自身がペルセフォネ王女との会談を一時は了承したほどだ。
 なにより、激運の冒険王女は姑息で卑怯な手法を嫌う人間だ。
 それだけは、アリアドネの糸レベルで信じられる確実な情報だった。

「あ、あの」
「ん? どうしたね、ヒロ。お前さんの意見も聴かせてもらえるかい?」
「え、ええ。えっと……むしろ単独犯、ないしは少人数での犯行ではないでしょうか」
「ふむ。だとしたら、その動機をまずは説明できなきゃいけないねえ」
「例えば、オレが考えるにはこういう筋書きです」


 少し自信なさげなヒロを、隣のヴィラールが視線で支える。その頷きを拾って、ヒロはたどたどしく話し始めた。

「国家、それに並ぶレベルの組織が背後にいるなら……なにもこんな、証拠じみた鈴の音なんか残さないと思うんです。薬でもなんでも使って、完全犯罪でいいわけですから」
「ふむ、道理だねえ。それで?」
「敵は少数精鋭、ないしは……ただ一人という可能性も捨てきれません。カースメーカーが自ら行動したのは、そうせざるを得ない規模の人間たちだからでしょう、と……まあ、オレなんかは思ったんですが」

 意外な発想で、斬新で、それでいて一考の余地がある可能性だった。
 カースメーカーは送りこまれたのではない、むしろカースメーカー自身に動機があって、自分で動かざるを得なかったというところだろう。だからこそ、警備の厳重な探索司令部の奥、王宮内で鈴の音という証拠を複数の衛兵に残してしまったのである。
 あるいは、自分の存在、呪いによる病ということを隠す気がないのか。

「なるほど、ふむふむ……こりゃたまげた、ヒロ。そいつも視野に入れていくとしようかねえ」

 いまだ謎は謎のまま、不可解な王女の昏睡状態は続いている。その犯人はカースメーカーだとほぼ断定できたが、ではその動機は? 敵の規模は? 単独犯だとすれば、その目指すものはなんであろうか。
 とりあえず、探索司令部からはレムリア群島の調査を続行する旨が伝えられている。
 今回のことは脳味噌の片隅に保留しておいて、また明日からの忙しい迷宮探索に専心するがヨシとカラブローネは心に結んだ。切り替えていかねば、その先に死が待つ……それが迷宮というものだから。

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