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 冒険者による新たな迷宮の探索が始まっていた。ジルたち『タービュランス』の一同も、連携関係にある『ストラトスフィア』と協力して調査に向かっていた。
 だが、そんな冒険者を待ち受けていたのは……奇々怪々な寒さと暑さだった。
 火山地帯の中に存在しながらも、凍土のような『金剛獣ノ岩窟(コンゴウジュウノガンクツ)』は底知れぬ深みへと冒険者をいざなう。
 そんななか、やっぱりかとジルが呆れつつ感心する事態が発生した。

「わわ、本当に温泉つくっちゃったんだ……露天風呂だね」

 そう、とある冒険者が迷宮で迷った挙句、偶然に見つけた産物である。その第一発見者は即座にそれを地図に記し、今では仮設の番台で入浴料を取っているありさまだ。
 噂を聞きつけたジルは、友人たちを誘って物見遊山(ものみゆうざん)といったところである。
 だが、あまりにも本格的過ぎた。
 一歩外に出れば、そこは魔物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する危険な迷宮である。それなのに、出店が並んで入浴客も大混雑、マギニアの外に新しい社交場ができたような活況だった。

「おんやあ? ジル、リベルタ。それにウカノも。ドロテアにシェイレーヌも一緒じゃないか。お目当てはやっぱり温泉? だよねえ、フフフ」

 ちょうど入浴を終えたマイカが、ジルたちを出迎えてくれた。
 その均整の取れた裸体を前に、思わず全員が自分の胸に両手をあててしまう。まだまだ伸びしろはあると、ジルは自分に言い聞かせた。
 それにしても、自室に入り浸って研究生活が常なのに、マイカのスタイルの良さは抜群だった。この世に降りた女神か天使か、はたまたその両方か。
 その彼女が、料金箱に小銭を入れて冷えた牛乳を手に取る。

「ぷはーっ! 風呂上がりの一杯は格別よねえ……ん? どしたの、みんな。やだなあ、そんなにじろじろ見られるとお姉さん困っちゃうよ」

 ニハハと笑うマイカは、身体を拭きながら「最近はどう?」と少女たちの調査進捗状況を聞いてくる。ジルたちはそれぞれ着衣を入れる(かご)を手に、履物を脱いでロッカーに入れた。
 そんな中で、真っ先に口を開いたのがリベルタだった。

「それがさー、マイカの姐御(あねご)。なーんか妙な迷宮なんだよね、ここ」
「ああ、それは私も思ってた。……アレの使い道もほんと、わからないままだしね」

 アレを指さし、マイカは笑ってバスタオルを羽織る。
 隠されることで生まれる美というものを、ジルは思い知らされた。まだまだ十代の少女にとって、頭脳明晰で沈着冷静、でもちょっとヘンテコでミステリアスなマイカは憧れだった。
 そのマイカが言うアレとは、牛乳瓶を入れたケースに突き立つ謎の氷である。

「アチコチで採取できるんだけどさ、あの氷の棒。使い方がわからないんだよねえ」
「そ、そうなんです! わたし、採取は得意で毎日勉強してるんですけど……マギニアに持って帰ると溶けて消えちゃうし、でも火山地帯には不自然な冷たさだし」

 ドロテアの言葉尻を拾って、シェイレーヌもうんうんと腕組み頷く。
 一足先に脱いだウカノが、タオルを手に話を付け足した。

「下に降りる階段がみつからなくて……あと、本物の『金剛獣ノ岩窟』には、わたしの一族……獣人のイクサビトが住んでるって話なんですけど」
「それなー、うちの帝国でも今は珍しくないんだ。ウロビトもイクサビトも、協定を守って帝国と一緒に生きてくれてるし。騎士になるイクサビトも珍しくないしねー」

 そう、ウカノのふるさとはまだ見つからない。手掛かりになるのではと思われたこの迷宮も、タルシス地方の冒険者が懐かしさを感じる程度のものでしかなかったのだ。
 シュバババ! と威勢よく脱ぎつつ、育ちの良さを感じる様子でリベルタが着衣を籠に綺麗に畳む。それにならってジルも脱げば、お互い小さな古傷だらけだった。ウカノやドロテア、シェイレーヌも変わらないが、お互いそこまで目立つ傷はない。

「むふふ、それどれー? お嬢ちゃんたち、ちゃんと育ってるかにゃー? お姉さんが調べてあげよう!」

 不意にマイカが抱き着いてきて、ふんわりと洗顔料の香りがシナモンを思い出させた。だが、ニヤニヤ笑うマイカに順番に触られて、抗おうとしても身をかわすことができない。術師で技術者な上に、マイカの体さばきは鋭く素早い。そしてなんだかいやらしい。

「うんうん、健全! 健全! みんな大きく育つんだよー?」
「は、恥ずかしいです、マイカさん。それに、最近ちょっと肩が凝ってきて」
「現状だとウカノちゃんがトップだからね。ヒロ君も嬉しいでしょう」
「そうなんですか? な、なんか、そういうの考えたこと、なくて。でも」

 ヒロの自室のベットの下の話になって、マイカは苦笑しつつ「そこはほら、見て見ぬふりしてあげなきゃね」とサムズアップでキリリと表情を引き締めた。
 なんの話だろうと、ジルは小首を傾げる。
 逆にリベルタはやっぱり、うぎゃー! てぇてぇ! とねっちゃりした顔で昇天しかけていた。そんな彼女の身体に魂を戻してやりつつ、ジルも温泉へと踏み出す。
 マイカと別れの挨拶を交わした先は、なかなかに手の込んだ大浴場だった。

「そうなんだよ、アタイがトゲトゲの岩を処理してたらさ。ありゃ、転んだら危ないからね」
「へえ、それであの通りは近道に使えるようになったのね」
「そそ、そしたらびっくりだよ! 誰が落としたんだか、指輪が出てきたのさ」
「もうけたじゃん! ほんと、迷宮のアチコチにいろんなことがあるうよねえ」

 すでに入浴中の同業者たちも、情報交換をしながらぬくもりの湯にリラックスしていた。ここは女性だけの女湯で、右も左も同性ばかりだ。宿の浴場やシャワーもいいが、やはり天然の温泉、それも露天風呂というのは気が休まる。
 さっそく連れだってまずは身を清め、湯船に入る準備を整える。

「ジルさ、みんなも。これ使ってみ? こういうのは結構、故郷じゃウロビトさんが作るの上手くてさあ」
「わっ、いい香り……いいんですか、リベルタさん。お高いんじゃ」
「女の子はねー、清潔感と可愛げが大事だしさ。ほらドロテア、遠慮せず使いなよ。みんなも。あと、さん付け禁止! アタシのことはリベルタでいいって」

 ジルのとこにも、いかにも高級感のあるガラスのボトルがまわってくる。あまり普段からオシャレに気を使ったことはないが、ふんわりと香る柑橘系(かんきつけい)の匂いが精神を優しくなでた。これは贅沢品だが、リベルタは全く気にした様子がない。
 ほかにも、ドロテアが集めた素材で作った石鹸(せっけん)なんかも素朴な気持ちよさがあった。

(わらわ)もアーモロード産のなにかを取り寄せようかのう。どれ、借りるぞリベルタや」
「ちょ、おまっ! もっと控えめに遠慮を込めて使えよー! どんなドバドバ出したら」
「およ? おおう、よい泡立ちじゃ。なに、今度妾もなにか用意しておこうぞ」
「……一気に半分以下になっちゃった。きーっ! 高かったのにー!」

 リベルタの怒りも本気ではなく、笑いの花が咲いて連なる。
 だが、穏やかな雰囲気もそこまでだった。


「みんな、そこにいるですか! 大変です、例の氷の棒の使い道がわかったかもなのです!」

 突然ババーン! と、温泉の扉を勢いよく開いてまひろが現れた。
 もちろん、全裸である。
 アヒルの玩具を手に、彼女は生まれたままの姿……そうあれかしと造られた姿でジルたちに歩み寄ってきた。
 すかさずウカノがタオルを手に駆け寄る。

「まひろ、ちょっとごめんなさいね。……隠すとこは隠さないと。まひろは特に」
「うゆ? あ、ああ、そうでした。兄様に気を付けるよう言われてたのに、うかつだったのです」
「わたしはヒロで見慣れてますけどね、もっと女の子同士のなんというか、こう」
「ウカノの兄様も優しくて素敵な人です。わたしの兄様もなんか、弟が出来たみたいで嬉しいって言ってたのです!」

 だが、女湯はパニックになりかけた。
 当然である、むちむちでぷりぷりな美少女が本来女性にないものをブラブラさせながら入ってきたのだ。ジルはリベルタの目を、リベルタもジルの目を手で覆う。ドロテアとシェイレーヌも全く同じポーズで互いの視界を遮っていた。
 こうして、冒険者たちは新たな探索の道を見出した。
 それはそれとして、まひろは温泉を出禁になってしまうのだった。

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