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 ブロートが彼らしくもない不敵な笑みで階段へと去る。ペルセフォネ王女の手首を強引に掴む手とは逆の腕を振り上げ、彼は指を鳴らして消えた。
 同時に、頭上から巨大な影が落ちてくる。
 階段を(ふさ)ぐように今、恐るべき怪物が絶叫を張り上げていた。


「こいつ……バジリスクだ。みんな、気をつけて」

 ネカネが弓を構えて矢を(つが)えた、その瞬間にはジルベルトは走り出していた。
 そのすぐあとを、なにも言わずにリベルタが続く。
 二人の砲剣がモーターの金切り声を歌って、強力なドライブが励起(れいき)する。

「火か、氷か、それとも雷か……私は氷でいってみる!」
「トカゲ系だもんねえ。んじゃ、アタシは雷!」

 ――バジリスク。
 ジルベルトも以前、実家の書庫で読んだことがある。とても強靭(きょうじん)な肉体を持ち、その爪と牙はあらゆる物を引きちぎると。また、その目が妖しく輝く時、あらゆる全ての生命は石化してしまうという。
 危険な魔物だが、今のジルベルトに迷いはなかった。
 さらに抜きんでて風になれば、目の前にバジリスクがそびえたつ。
 その剛腕の一撃をギリギリで裂ければ、生まれたばかりの残像が一瞬で消滅した。

「やっぱり、フィジカルで圧倒してくるタイプの魔物! あとは目の光にさえ気をつければ!」

 右に左にと首をのばすバジリスクの顎門を避ける。同時にジルベルトはガチガチと虚空を噛み千切られる中で砲剣を振りかぶった。その時にはもう、疾風迅雷の足さばきが影を無数に躍らせた。

「氷、じゃない? あまりよく通らない……じゃあ炎を!」

 すかさず援護の矢が飛んできて、それを追うように瘴気(しょうき)の花びらが舞い散る。ネカネとドロテアの支援が、ジルベルトのステップを加速させる。
 シャープエッジ、クールエッジ、そして流れるようにチャージエッジ。
 まるで舞うように、踊るように。それ自体が一つの技であるかのように、連続攻撃でジルベルトは愛刀を冷却、同時にモーターのギアを一段上げる。
 リベルタと練習した成果が今、間髪入れず残像と同時にフレイムドライブを炸裂させた。

「炎でもない、つまり! リベルタッ!」
「オッケ、ジル! ファイナルアンサー? 雷と見たっ! おんどりゃあああ!」

 リベルタがインペリアルの秘奥義を解放させる……イグニッション。リミッターを解除し、連続してドライブを放つことができるインペリアルだけの砲剣技だ。さすがにそこまではジルベルトは習得できないが、それでもヒーローとしての本分で親友を支えた。
 同時に、装備の重さを感じさせない素早さでまひろがバジリスクの横へ回り込む。

「お前の相手はわたしなのです! トカゲなんか、お尻ペンペンなのです!」

 露骨(ろこつ)な挑発にバジリスクは意識を逸らした。同時に、尻尾で激しく地面を打ち鳴らす。
 一瞬、ジルベルトの神経を電流が突き抜けた。力任せのパワータイプと(あなど)ったか、敵もしたたかで厄介な妙技を隠し持っている。大地が揺れて、その振動に足を取られたところに尻尾が巻きついてきた。
 すかさずまひろが、その太い尾をシールドアーツで撃退する。
 その時にはもう、赤熱化する砲剣を手にリベルタが宙へと舞い上がっていた。

「おっしゃ、ビンゴッ! この手ごたえ、こいつ雷に弱いっ! もういっちょ!」

 強力なショックドライブのワンツーが、左右からバジリスクを揺らがせる。ジルベルトにもはっきりと見えた。リベルタはサブクラスにゾディアックを選んでいるので、相手の弱点属性に対して鋭い一撃を叩き込める。
 すかさず駄目押しの三発目で追って、ジルベルトも刃に灯した雷を叩きつけた。
 そして、冒険者たちの猛攻は続く。  ここで手間取ってはいられない。
 早くブロートを追って、ペルセフォネ王女を救わないといけないのだ。

「いよーし、超必殺裏奥義(すごいやつ)っ! 我が剣に誓う、帝国騎士は無敵なり! コンバァ、ジョオオオオン!」

 剣を地に突き立て、その柄に両手を置いたリベルタから光が(ほとばし)る。因みに技名を絶叫するのはその時のノリとテンションであって、技自体とはあまり関係ないらしい。
 眩い光の中で、リベルタの全身から漲る闘志がゆらゆらと可視化できる程だ。
 が、その瞬間突然清冽(せいれつ)(まばゆ)さがしぼんで消える。
 同時に、ふにゃりと脱力したようにリベルタは片膝をついてその場に崩れ落ちた。

「あれ? え、なんで……身体に力が入らない!? なにそれ聞いてませんわおかしいですわよ想定外でしてよー!」
「リベルタ、落ち着いて! まひろ、フォローおねがい。10秒……ううん、5秒だけ壁やって!」
「任せるです! すぐにリベルタを……うゆ? なんか、トカゲの目がピカピカしてるのです!」

 その時だった。
 よろよろとどうにか立ち上がったリベルタが、駆け寄るリベルタを突き飛ばした。しりもちをついて、それでも再度身構えたジルベルトの表情が凍る。
 そこには、砲剣を杖のようにして立つリベルタの姿があった。
 まるで古代の芸術家が掘り起こした、優美な石像のように固まっていた。
 そして、次の眼光がジルベルトに向けられる。

「させない……そこだね」

 すかさずネカネが、二本の矢を同時に番える。そして、さも当然のように同時に二発を撃ち放った。その鋭い(やじり)が、両方ともバジリスクの瞳に突き刺さる。
 絶叫を張り上げ魔物が身悶(みもだ)え両手で目を覆った。
 次の瞬間には、小さな死神がその(ふところ)へと踏み込んでいた。

「師匠直伝っ! なんか凄いスラーッシュ! 瘴気よ、狂い咲けっ! ……決まった」

 ドロテアの大鎌が、集束して渦巻く瘴気の刃を横薙ぎに走らせた。
 深々と切り裂き、そのまま払い抜ける。
 完璧に決まったその一撃は、こまめに瘴気で相手の力を()いでいた、ドロテアの努力の蓄積が呼んだ決定打だった。
 その間隙に、迷わずジルベルトは残像を無数に広げる。

「これで終わりにする……待っててリベルタッ!」

 次々とジルベルトが()せる。駆けるほどに増えて、そしてそろって砲剣を振り上げた。ショックドライブが幾重(いくえ)にも連なり、神の罰雷(インディグネーション)にも等しい光が広がった。
 一発一発の威力は本職に劣るものの、ジルベルトは本来のヒーローとしての力を応用することで1+1を10にも100もできていた。それは勿論(もちろん)、仲間たちがいてくれるからである。
 断末魔の絶叫を張り上げ、バジリスクはその場に崩れ落ちた。
 同時に、リベルタの石化が解除される。

「っ、ん、はあ……身体が、動く? ならっ! 今度こそ、次のドライブを……って、ありゃ?」
「リベルタ、大丈夫? 怪我は、ないよね? ……さっきはありがとう」
「うんにゃ、ドンマイ! わはは、気にしない! それより、急ご、う? あ、あれれ?」

 階段へ向かって走り出そうとしたリベルタは、そのままつんのめって派手に転倒した。明らかにおかしい、石化のダメージも残っているのかもしれないが……やはり、コンバージョンで自身を強化した瞬間になにかがあったようだった。
 結局、いいからいいからというリベルタを(いさ)めて、ジルベルトは苦渋の帰還を選ぶのだった。

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