人類のささやかな反攻が始まった。
トゥリフィリたちがもたらした
武器も新たに、トゥリフィリは戻ってきた。
東京の避難民全てを背負わされて、再びこの場所……
「っし、こっち終わり! ナガミツちゃん、そっちは!?」
気付けば慣れてゆく中で、激戦は思考を許さない。
トゥリフィリはマモノを片付けるや振り向いた。両手の銃からマガジンがするりと落ちて、床に乾いた音を立てる。直ぐに装弾しつつ仲間を見やれば、自分の心配が
「んー? だーいじょうぶだよん。うん、調子いいみたいだネ」
そこには、異様な光景が広がっていた。
徒手空拳の体術で、自分より巨大な
声の主は、圧倒的な強さを見せるナガミツではなく、カジカだった。
中空に光学キーボードをぼんやり灯して、彼はデータ収集の真っ最中だ。
ナガミツは無機質な言葉を呟きながら、事切れた巨躯を放り投げる。
「状況終了、損害ナシ。班長、次の指示を」
「あ、えと、うん。……ナガミツちゃん、さ」
「なんだ?」
「怪我は……ないよね、うん! はは、はははは……」
「どこも損傷はない。見ての通りだ」
ぶっきらぼうで、粗野にも聴こえる声。だが、妙な通りの良さで不思議だ。ナガミツは周囲を警戒しつつ、
冷たい
機械であるナガミツには、それが正しい用途であり機能かもしれない。
だが、トゥリフィリにとって彼はあまりにも自分たち人間に似過ぎている。だから一層、冷たく
「索敵終了、動体反応を検知。班長、すぐに処理してくる」
「あ、待ってよナガミツちゃん! ぼくも行くから!」
「必要ない。俺だけで十分だ。カジカ、班長を頼む」
「ちょ、ちょっと!」
ナガミツは一人で行ってしまった。
その背に手を伸ばせども、追いかけることができずトゥリフィリは
ナガミツを見送り、トホホとトゥリフィリは溜息を
だが、面白そうにカジカはデータの整理を続ける。
「気にしないのよう、トゥリフィリちゃん。ナガミツちゃんだって子供じゃないんだからさ。でも……すっごく興味深いデータが取れてるなぁ」
「そうですけどねー、カジカさん。あの、なんかこぉ……」
「持て余してる? ナガミツちゃんのこと」
「それもあります! 凄く! ……でも、なんだろ。あの子、ロボットかもしれないけど。かもしれないもなにも、ロボットだけど。それでも、仲間なんだしさ」
ナガミツは自分を常に、13班の備品として位置付けている。その上で、班長であるトゥリフィリの判断を絶対の価値基準とし、献身的なまでに仲間を守って戦うのだ。マモノからの攻撃を一手に引き受け、盾となってくれる。
そうあれと造られたなら、それは少しトゥリフィリには
守ってくれるナガミツは、トゥリフィリが彼を守りたい気持ちを受け入れてくれないからだ。
「まあでもねえ、トゥリフィリちゃん。彼、すごーく柔らかい思考と人格に推移しつつあるよ? データを見るとねえ、そこんとこよーくわかる。うんうん」
「そぉですかあ? ……あ、でもそういえば……この間」
「なんかあった?」
「二人でちょっと話してたら、ぼく寝ちゃって。でも、気付いたら毛布がかけてあった。あれって多分、ナガミツちゃんが。なんか、変に融通利かない癖に、いっちょまえにさー、もー……変な奴ですよ、彼。凄く変」
「はは、なるほどねー」
笑って周囲の光学キーボードを消し、カジカは教えてくれた。その言葉を聞いて、思わず
「え? ……人間の隣に立つ者、並んで歩く者。友達?」
「そゆこと。オサフネ先生はそれを望んで研究に没頭していたんだよ。
「友達、かあ」
「彼は彼なりに、人間との接し方を勉強中って訳。なにせ、生後数ヶ月だからねえ」
不思議な話で、カジカがへらりと笑えばトゥリフィリは納得してしまった。
あのぶっきらぼうで無愛想なナガミツが、人類の友達……並び立つ存在として造られたモノ。まだまだ不器用で不勉強だが、彼はそこを目指しているという。
なら、隣に並ばれたトゥリフィリのやることは自然と決まった。
それを心の中に言い聞かせた、その時……不意に悲鳴が走る。
「カジカさんっ、誰かの声! ナガミツちゃんが行った方だよっ」
「ほいほい、それじゃー行ってみようかね。地下シェルターに逃げ遅れたけど、生きてる人も結構いるらしいから。生存者の救出も13班の仕事だよん?」
「はいっ! ……でも、なんだろ。この声、どっかで聞いたような」
全力疾走のトゥリフィリに、カジカは遅れながらもついてくる。彼はハッカーとして、情報技能S級の力を持っている。普段はナガミツの制御系やログの管理ををしているが、13班のメンバーとしてトゥリフィリたちをサポートしてくれていた。
やがてトゥリフィリは、暗がりで振り返るナガミツを見つけて駆け寄った。
「班長、要救助者発見。本人たちは13班のサポートメンバーだと言っている」
「えっ、なになに!? ……あっ! 君たち、あの時の」
そこには、ゴスロリのミニドレスも鮮やかな少女が立っていた。その脚にしがみついて震えているのは、パーカーのフードを被った少年である。
トゥリフィリはこの間の、竜が襲ってきた夜のことを思い出した。
この都庁舎の屋上で、あの日竜に襲われていた二人組だ。
金髪ツインテールのゴスロリ少女は、意外にハスキーな声で握手の手を差し出して笑う。とても愛らしい表情は、どこか奇妙な違和感があるのに気にならない。なにかしらの不自然がひそんでいるのに、当の本人が自然体すぎるからだ。
「君、トゥリフィリ? わたしはシイナ、13班に配属されたよん? よろしくねー」
「あ、うん。よ、よろしく……怪我、もういいの?」
「ん、平気平気っ! そろそろアレコレ活動再開しないとね。干上がっちゃうし、むふふ」
「あと、その……足元でブルッてる人、彼もこないだの」
シイナの手を握り、意外に大きな
「おっ、おおおお、俺は、あ、いや……フッ、私はノリト……人呼んで、
「あ、ども。ってか、大丈夫? キャラ、無理しなくても……しかも、格好ついてないし」
少しこじらせた印象だが、ノリトも自分を13班のサポートメンバーと名乗った。悪い人ではないらしいが、何故か自分をクールでニヒルな影のある少年として見て欲しいらしい。カジカが笑いを必死で噛み殺してるなか、ぼーっと立っていたナガミツが先を見据える。
彼は機械の瞳で闇を見据えて、現実を口にした。
恐るべき真実を、そのまま述べた。
「二人を13班のサポートメンバーとして確認。
「あ、ああ、そだね。大勢でぞろぞろってのよりは……ほへ? 男性二名?」
「シイナとノリト、両名はムラクモ機関に登録されたS級能力者だ。見りゃわかんだろ」
「いや、見たままなら」
「男と男だ」
「ウソだー!?」
シイナは、男だった。女装しているのだ。それをシイナ本人が認めた瞬間、ノリトはしがみつく彼女の……否、彼の脚をずるずると滑り落ちてぺしゃーんと動かなくなった。
こうして新たな仲間の力を借り、トゥリフィリは先に進む。
隣に並ぶナガミツのことは、やっぱり機材ではなく仲間という意識だけは確かだった。