救出したアオイのことは、キジトラが引き受けてくれた。彼は一時パーティから離脱し、後続の物資回収班と都庁に戻るという。
何度も先輩を連呼しながら泣きついていたアオイは、ようやくトゥリフィリから離れた。
意外にもキジトラが
思わず「
今、トゥリフィリが連れ歩く仲間達の雰囲気は、率直に言って最悪だった。
「待てよ、キリコ。勝手にずんずん進むんじゃねえ」
「私に
「話を聞けって」
「うるさい、
「……それ、やめろよ。
トゥリフィリはなんだか、さっきから胃袋がシクシクと痛む。
彼女を挟んで左右から、終始キリコとナガミツはこの調子だ。
ナガミツがキリコをなまくらと呼ぶのは、伝説の
そんな今のキリコがナガミツを
思わずトゥリフィリは
「はぁ、
やれやれと思いつつも、トゥリフィリは右手でナガミツの手を握る。
同時に左手で、キリコの手を握った。
「どうした、班長。……体温や脈拍が少し高いな。なにかのストレスを感じているのかもしれない。……大丈夫か?」
「お、おいっ! 俺の、あ、いや、私の手を気安く握るな! ……別に、いい、けど」
キジトラが抜けてしまって、トゥリフィリは一気にやんちゃな二人の面倒を見る羽目になったのだ。
だが、戦闘では二人は酷く頼りになる。
互いに競って強さを見せつけるように、ナガミツとキリコは並み居るマモノを全て片付けてくれた。だが、連携が全くできていない。ナガミツの動きは普段より固いし、キリコも少し苦しそうだ。
握る手と手を通じて感じるのは、いてくれてありがたい仲間の温もり。
ナガミツの手だって少し硬いが、おずおずと握り返してくれた。
「二人共、いーい? あのねえ……仲良くしなさーい、なんて言わないけどさ。危険な場所なんだし、お互いカバーしあってこうよ」
「俺はちゃんと班長をカバーしている。そっちのキリコが悪い」
「私はお前達二人をちゃんと守っているだろう! ……なんなんだよ、もうっ!」
難しいなあとトゥリフィリが苦笑いを零した、その時だった。
不意に周囲に無数の殺気が舞い降りた。
そして、トゥリフィリ達三人を囲む強烈な敵意は、S級とまではいかなくても能力者特有の覇気が感じられる。身体的にも精神的にも一般人を
そして、目の前に一組の男女が舞い降りる。
「ヨォヨォ、あの女の手先のご登場だぜ? イノ、やっちまうか? なあなあ、イノ!」
「とーぜんじゃん? アタシ
いかにもチャラい感じの男は、
隣のギャルギャルしい女も、身構え精神力を研ぎすませてくる。
だが、次の瞬間……トゥリフィリの左右から突風が飛び出した。
あっという間にナガミツの
「ちょ、マジ? 聞いてねーし! ってか、痛ぇよオイィ? イノ、なあイノッ!」
「ちょームカツクー!
トゥリフィリに頷く彼の目が、無言で語っていた。
ここには、S級能力者に極めて近い力を持った若者達がいる。それも、大勢だ。
周囲を見渡せば、原生林と化した渋谷のあちこちに人影が立ち上がる。
知らぬ間にトゥリフィリ達は包囲されていたのだ。
だが、ナガミツとキリコは動じた様子もない。
そして……意外な再会がトゥリフィリの目の前に降ってきた。
「にゃはは、やーっぱイノとグチじゃ駄目かー! お疲れさん、っと」
「二人共怪我はないな? ……あとは任せてもらおうか」
スカイブルーの着衣を
その姿を見た瞬間、トゥリフィリは声を張り上げた。
「あっ! あの時……都庁で
「おっ? そういうキミは……あの時のムラクモ候補生ちゃんかにゃー?」
「生き延びていたか。やはり、
丁度、ナガミツとキリコを背にして、二人はトゥリフィリに近付いてくる。
可憐な
戦意も
「ま、待ってください! ぼくは戦いに来た訳じゃ……今は、人間同士で戦う訳にはいかないでしょう!」
「にゃはは、ド正論だにゃー? でも……ムラクモのあの女の手先ってんならさあ」
「
「ビンゴだにゃん? そして……悪いけど痛い目見て帰って。行くよ、ダイゴッ!」
二人は互いの呼吸に鼓動を重ねて、一糸乱れぬコンビネーションで襲い来る。
仕方なく銃を抜いたトゥリフィリは、中空へと逃げて身を
すぐ側を氷の
密林の戦闘で
全く違う戦闘スタイルの二人が、互いの短所を補い長所を引き出す。防戦一方で逃げ惑うトゥリフィリを助けるべく、ナガミツとキリコも地を蹴った。
だが、二人の斬竜刀は全く連携が取れてない上に、協力する素振りも見せない。
「邪魔だ、どいてろ。班長は俺が救う」
「機械人形がなにを! 私の前で死なれちゃ、目覚めが悪いんだ!」
あっという間にトゥリフィリは、ダイゴと呼ばれた男に首根っこを掴まれた。巨大な手が
そして、涙で
「ネコ、掴まえたぞ。……殺す必要はないが、ただでは返せないな」
「そうねえ。やり過ぎるなって言われてるし。でも、やるだけならOK? かな? にゃはは」
「少し痛い目をみてもらうか。どれ!」
出したくもない本気を総動員する。
突然の行動に一瞬、ダイゴは驚き
その瞬間にはもう、トゥリフィリは両親に叩き込まれた
だが……伸び切って
そして、拍手と共に軽薄にも思える男の声が響いた。
「なるほどねぇ……フェイントの基本か。そりゃ、撃つと見せて弾を捨てれば、ついそっちを見ちまうわな。おい、ネコ! ダイゴも。その辺にしといてやれ」
長いマフラーをした
そしてトゥリフィリは、彼にSKYのリーダーだと自己紹介を受けた。
それが、後の歴史が忘却してゆく英雄、タケハヤとの出会いだった。