広がるは、熱砂の大砂漠。
かつて都心部のホームタウンだった国分寺は、全てが枯れ果てた
トゥリフィリは腰からペットボトルを引き抜き、水の残量を確認して一口。
灼熱の太陽が照りつける中、すでに歩いて小一時間が経過している。
ムラクモ機関の
「あー、
まるで冬眠終わりたての
その横には、暑苦しい詰め
「キジトラ、こうした乾燥地帯ではむしろ、肌の露出を抑えるべきだろ。人間は体内水分の僅か8%失われただけで、活動不能……最悪、死にいたるからな」
「やかましい……そうか、それで貴様はクソむさい学ランなのか」
「俺の場合は服装と冷却機能に関係はねぇよ」
「……もはや突っ込む気力もない」
同感だ。
トゥリフィリも
かといって、一時間来た道であるからして、戻るのにも一時間はかかる。
ここはこのまま進んで、先行している自衛隊の
つまり、そこまでは自力で進むしかない。
「うう、自販機ないかなあ……ないよね」
「俺様はコンビニを所望する……ガリガリ君、を……せめて、
「ちょっと、キジトラ先輩……しゃれに、ならないよぉ」
こんな時でも、ナガミツだけは元気だった。
彼は涼しい無表情で、遠くを指差す。
「フィー、2km先に自動販売機だ」
「えっ、ホント!?」
「辛うじて砂から突き出てる。尚、電源は喪失しているようだ」
「……あ、はい……ありがとね、ナガミツちゃん」
因みに、先程砂に沈んで見なくなったコンビニの上を通ったという。
既にもう、国分寺には人類の文明が全く残っていなかった。
「おいこら、ナガミツ……貴様、今すぐクーラーか扇風機になれんのか」
「それはどういう……?」
「学ラン着たアンドロイドなら、飯が炊けたりするだろう! 腹にコンセントがあるだろう!」
「……ねーよ。それに俺は、アンドロイドじゃない。人型戦闘機、
不毛な会話が、不毛の大地に小さく響く。
これはそろそろ本格的に参ってくるぞと、トゥリフィリも頭を抱えながら歩いた。
そうしている間も、三人の足だけは一定の速度で歩き続けている。
俊敏性や身体能力など、S級能力者の秀でた長所は様々だ。しかし、共通して言えるのは、
だが、トゥリフィリはそれでも普通の女子高生、どこにでもいる平凡な女の子。
ちょっと足が速くて、両親が護身術や銃器の扱いを教えてくれただけだ。
多分、キジトラも似たようなものだろう。
「ん、おい……見ろよ、キジトラ」
そんな時、ナガミツがなにかを見つけたらしい。
だが、トゥリフィリには代わり映えしない砂の海が続いて見えたし、キジトラも同じだろう。
「なにもないぞ、バカモノ」
「よく見ろって、1.5km先だ」
「見えるか、ドアホゥ!」
だんだん
ナガミツは他のメンバーとも打ち解けはじめていたし、キジトラには遠慮がなかった。
気心の知れた親友のようでもあり、
「自衛隊の車両がひっくり返ってる。……マモノかっ!」
綺麗な
瞳は彼にとって光学センサーであり、それ以上の意味を持たない。
そして、人間を遥かに
それでも、トゥリフィリにだってそれは『綺麗な目』である以上の意味を感じなかった。
「ナガミツちゃん、ダッシュ! 先行して自衛隊さんを助けて! 人命優先!」
「おう!」
言うが早いか、ナガミツが砂煙を巻き上げ消えた。
あっという間に熱気を
トゥリフィリもキジトラと
重い脚に
露骨に苦しげな表情をしていたが、キジトラは全速力でその前を駆け抜けていった。
そして、徐々に横転したトラックが見えてくる。
「皆さん、無事ですかっ!」
トゥリフィリは銃を抜きつつ、叫んだ。
出入りする空気が熱くて、乾いた喉を
ナガミツは既に、巨大なワーム状のマモノを仕留めたあとだった。
「おお、13班! すまない、こっちがサポートする側なのに、助けられたよ」
「物資は無事だ、水も食料もある。今、テントで日陰を作ろうとしてたんだが」
「それより、その……ちょっと、困ったことになっていてね」
隊員達は皆、軽傷のようだ。すぐに安全が確保されると、予定通りの作業を始める。
だが、そんな風景の中に巨大な違和感が立ち尽くしていた。
トゥリフィリはすぐに、隊員達の困り事をさっする。
「えっと……この子、要救助者、ですか?」
「だと、思ったんだがね。その……最初のマモノは、彼女が倒してくれたんだ」
そこには、隊員達にあやされ
だが、そんな彼女がわんわんと声を上げて泣いているのだ。
まるで大きな幼女である。
「うえーん! う、うぐ、ひっく……う、うう……びえーっ!」
「あ、えと……あのー、ど、どこか痛いですか?」
「うう、あのね、んとね……ぐす。エリヤね、迷子なの……迷子……う、ううっ! うおーんおんおん!」
どうやら巨大幼女の名は、エリヤというらしい。そして、彼女は背伸びするトゥリフィリに鼻水を拭いてもらいながら、遠くを指差した。
見れば、遥か向こうに