異界にも等しい
疲れ切ったキリコに肩を貸しながら、仲間たちに守られトゥリフィリは歩いた。
おぞましいマモノや、
ありとあらゆる殺意と敵意が、襲いかかってくる。
だが、トゥリフィリは戦闘に参加せず、体力を温存することができた。
「ね、ねえ、エジー。キジトラ先輩も、さ……ぼくも」
「いいんだよ、フィーは少し休んでなって」
「うむっ! キリ坊もそろそろ限界。しからば、俺様たちの出番ということよ!」
トゥリフィリが戦闘に参加すれば、もっと楽な
だが、キリコを放ってはおけない。
そして、仲間たちも
だから、トゥリフィリは前を向く。
必ず迷宮の最奥へと突き進んで、真竜ニアラを倒す。トゥリフィリは初めて、許せぬ存在を知った。人が人を許すことは、
だが、真竜ニアラは違う。
自らを神、摂理そのものとうそぶく悪意の
そしてそれは、拳を振るう相棒も同じだった。
「じじぃ! あんたが先頭切ってるって、どういうこったよ……なあ!」
今日もトゥリフィリの前に、ナガミツが立っている。
だが、今日はいつも通りの彼の前に、小さな
アゼルはサイキックの力を振るい続け、荒れ狂う力そのものとなって進む。
静かに、ゆっくりと……
まして、アゼルの正体は何百年も生きてきた最強の錬金術師である。
その彼が、刻む一歩に自分の命を乗せて、進む。
思わずトゥリフィリは声を叫んだ。
「おじいちゃん! 無理しないでよ……こういうのって、こんなのってないよ!」
だが、肩越しに振り返ったアゼルは、笑った。
それは、見た目に相応の無邪気な、子供の笑顔だった。
「なに、若者のために道を切り開くのは、いつだって年寄りの役目なのさ。気にしないでくれたまえ」
アゼルの振るうサイキックの力は、絶大だ。
大半の敵が、恐るべき超常の力に飲み込まれてゆく。
辛うじて避けたマモノが、エグランティエとキジトラによって片付けられていった。ナガミツもその戦いに加わってはいるが、明らかに運動量が落ちている。
自然とトゥリフィリにも、気遣いの中で託された想いを感じていた。
仲間たちは……特にアゼルは、自分たちのために捨て石になるつもりだ。
アゼルの隣へと踏み出て、ナガミツが炎に包まれた敵を蹴り飛ばした。
「はは、ナガミツ! 下がっていたまえよ。ここは僕の見せ場なのだからね」
「おいっ、じじぃ! 俺よりあんたの方が消耗してんだろ。なのに――」
「なに、我が子も同然の
白くスパークする
そして、目の前に巨大な壁が現れた。
咲き誇るフロワロが織り成す、それはまるで鮮血の絶壁だ。
フロワロは、その場所を支配する竜の象徴だ。竜の力が強いほど、フロワロは毒々しい赤で咲き誇る。
目の前の壁を守護する竜が、翼を広げてこちらを威嚇してくる。
「チィ! ここにきてドラゴンロードかよ……じぃさん? 待てよ、じぃさん!」
ナガミツを軽く手で制して、アゼルが前に歩み出る。
その髪はもう、色が抜けて真っ白だ。
先程アゼルは、力を使い過ぎたと言っていた。
だが、彼は口元に笑みを浮かべている。
「ナガミツ、そしてフィー。キリコも、エジーもキジトラも……いいかい?」
不思議と、あのナガミツが一歩下がった。
それはまるで、アゼルの気持ちを
だが、そんなナガミツが、
それをよしとするように、アゼルは言葉を続ける。
吠え荒ぶドラゴンロードを前に、白くなった彼の髪がふわりと舞い上がった。
「真竜ニアラとやらの
トゥリフィリは目が離せなかった。
今まさに、鋭い牙が絶叫と共にアゼルを飲み込もうとしている。
だが、彼はそっと地面に片膝を突いた。
そして、床へと小さな手で触れる。
「人とて家畜を飼いならし、自らの
不意にトゥリフィリは脚を止めた。
他の皆も、身構えながら固まってしまう。
恐らく、S級能力者ならずとも気付いただろう……アゼルの周囲に、力場が展開してゆく。それは、不可思議な光を明滅する床を、真っ黒な闇で塗り潰した。
広がる漆黒の中で、アゼルは目の前のドラゴンロードを
鋭い視線に一瞬、ドラゴンロードは怯えを見せて、次の瞬間に怒りを爆発させた。
口から放たれるブレスが、あっという間にアゼルを飲み込む。
その爆発の中で、広がる闇の中に……無数の瞳が見開かれた。
「君たちは、家畜などではない。人は情愛を持ち、生きる
あっという間に、凝縮された闇の視線がドラゴンロードを絡め取る。
思わずトゥリフィリは、言葉を失った。
瞬間、激しい衝撃と共にフロワロが舞い散る。真っ赤な花びらが、まるで悲鳴のような風鳴りと共に宙を乱舞した。
暗黒に飲み込まれたドラゴンロードは、断末魔すら残さず消滅していた。
そして開かれる道の先に、長い上り階段が現れる。
それを見据えて
「じじぃ! おいこら、手前ぇ! 格好つけやがって……クソッ、死なせるかよ!」
思わずナガミツが駆け寄る。
その表情にはもう、はっきりと感情が浮き出ていた。
だが、そんな彼の肩を掴んで、キジトラが呼び止める。
静かに首を横に振る親友を見て、ナガミツも何かを察した。
そしてトゥリフィリも、自分が託されたものを思い出す。
低くくぐもる笑い声が降ってきたのは、その瞬間だった。
「クァハ、クハハハハハ!
先程の、頭の中に響く声とは違う。
はっきりと肉声で、
開かれた道の先、階段の上から……真竜ニアラの声が、トゥリフィリたちの必死の戦いを