一つの大きな
再び訪れた竜災害の中で、避難民たちにも慣れが見え始める。竜とマモノが
それをトゥりフィリは責めたりはしない。
きっと、ナガミツや仲間たちも想いは同じだろう。
人の弱さは、罪ではない。
弱いままでも許されてほしい。
そういう想いが、トゥリフィリたち13班の強さの一つだった。
「ん、フィーもか? お疲れ。……本当に、ちょっと疲れてねえか?」
廊下でばったり、ナガミツと会った。
彼は遠慮なく、トゥリフィリの
全員で順々に休んで、今も国会議事堂の守りを固める作業は続いている。
トゥリフィリは今は休憩時間だが、気になることがあって居住区を訪れていた。
どうやらナガミツも、目的は同じようだ。
「ナガミツちゃんこそ、身体はどう?」
「んー、まあ、どうもこうもねえよ。これが新しい俺で、これからどんどん俺のものにしていくつもりだ。まあ、多少は重いが慣れりゃいい」
「そっか」
「おう。まあ、俺はそういう風にできてるけど、あいつはなあ……ったく、無理すんなって言ってるのに、あのバカは」
ナガミツは口が悪いが、その言葉に絶妙なニュアンスをトゥリフィリは拾う。
バカだと言っても、そうは思っていない。
彼にとってキリコという人物は、戦友でライバルで、そして親友なのだ。
そのキリコが倒れたという知らせを受けたので、トゥリフィリも飛んできた訳である。キリコは今、
彼女は体力的にも普通か、それ以下になっているのに気付かなかったらしい。
「頑張り過ぎってやつだぜ、まったく……」
「きっと、できることをやろうとし過ぎたのかなー? ふふふ」
「ん、なんだよフィー。なにかおかしいか?」
「ちょっとね、おかしいっていうか、微笑ましい? いいよねー、男の子同士ってさ」
ついついニマニマと笑みが零れる。
キリコは身体の半分、そして心の大半が少年なのだ。紆余曲折を経て、
そんな彼女の部屋が見えてきた。
特別に個室をあてがわれて、確かアダヒメと暮らしているらしい。
正確には、他の避難民と一緒でいいと言ったキリコを、アダヒメが愛の巣がどうこうと強引に引きずり込んだのである。
「ん? なんだありゃ……あのチンチクリンは確か」
ナガミツが僅かに
その理由がすぐ、トゥリフィリにも見えた。
キリコの部屋の前を、小さな人影が右往左往している。ノックをしようとしては、その小さな拳を引っ込めウロウロ……それは、先日助け出したルシェの少女だ。
名は確か、カルナ。
彼女もこっちに気付いて「あっ」と目を丸くした。
「やっほー、カルナちゃん。どしたの? キリちゃんに御用かな?」
「あうう、そ、それは……別に。13班こそ、どうした」
「俺たちはキリの見舞いだ。……ん、お前やっぱ、こうして見てみると」
どうやらナガミツも気付いたようだ。
そして、以前からトゥリフィリが感じていた
カルナはどことなく、
そう、キリコにどことなく似ているのである。
それは、マリナが今は亡き後輩に似ているのと同じだった。
「アタシは、自分のオリジナルを見ておこうと思って……でも、幻滅した。けど、やっぱり、顔くらいは見たいかも、って」
「だったらうだうだしてないで入れよ。ほら」
「あっ、ちょ、やめろよー! アタシは借りてきた猫じゃないぞ!」
ナガミツはヒョイとカルナの襟首をつまんで持ち上げ、そのままドアをノックした。
中からすぐに、アダヒメが返事と共に顔を出す。
彼女も自分以外のルシェが珍しいのか、むすっとしたカルナを見て
「まあまあ、これは……どこの氏族の娘でしょうか。あ、それより!」
「うん、アダヒメちゃんもお疲れ様。お見舞いに来たけど、キリちゃんどう?」
「今はよく寝てますわ。ささ、入ってくださいな」
着物にエプロン姿で、アダヒメが室内へと招いてくれる。
二人が暮らす部屋は質素で、段ボールを並べた上に畳が敷かれた和室である。その真ん中に布団を敷いて、キリコが安らかな寝息をたてていた。
薄い胸が呼吸に合わせて、静かに上下している。
アダヒメの話では、熱も下がって今は安静にしているとのことだった。
「フィー、来てくれてありがとうございます! キリ様も喜びますわ、きっと」
「いやあ、たまたま時間が空いただけだし。でも、安心した」
「はいっ! ……それで、あの子は? それとナガミツ、なにをしているのです」
お茶の準備をしつつ、アダヒメは小首を傾げて唸った。
キリコの枕元で、どっかと座ったナガミツとカルナが睨み合っている。
険悪と言う程ではないが、大小二つの影はとても近くて似ている者に思えた。
「あのなあ、チンチクリン。このバカはこれでも、すげえ奴なんだよ。お前が言うほどやわじゃねえよ。……だよな、ったく」
「チンチクリンじゃない、アタシはカルナだ! 母様が羽々斬の巫女のデータからアタシを造った……アタシたちは皆、ベースとなった人間がいる。マリナ様だって」
やはりかと、内心トゥリフィリは得心した。
そして、振り返ればアダヒメも小さく頷きを返してくれる。
ナツメが生み出した人造のルシェたちには、モデルとなった人物がいる。だから、どことなく雰囲気が似てしまうのだ。それは、悲しみで見送り決別を飲み込んだ身としては、少し辛い。
だが、そうした生まれを望むと望まぬとに関わらず受け入れるしかない、そんなカルナたちだって辛いだろう。
「あのクソ野郎、そんな研究まで……」
「母様はクソでも野郎でもないぞ!」
「へーへー、そりゃ悪かったな。それよりキリだ……ちょっと痩せたか? あいかわらず体力ねえなあ」
「こらー! アタシを無視するなー! アタシだって、力はA級でも戦えるんだー!」
ブンブンと両手を振り回して、カルナがナガミツに食って掛かる。
だが、ナガミツは見もせず片手でカルナのおでこを押しやり、遠ざけていた。
リーチが全然違うので、カルナが振るう拳が空振りの空回りで虚しく続く。
ちょっと面白くて、ついトゥリフィリも笑ってしまった。
「ねね、カルナちゃん」
「ん、なんだ13班!」
「ぼくはトゥリフィリ、フィーって呼んでね。これからも頼らせてもらうから、一緒にがんばろ? カルナちゃんはきっと、戦えなくなったキリちゃんの分も戦ってくれるかなーって」
トゥリフィリが優しく微笑み「ね?」と身を乗り出す。
ナガミツに抑えられながら、カルナはシュボン! と真っ赤になった。
力の強弱は関係ないし、生まれや育ちはみんな違う。トゥリフィリたちにとって許せない、許せる筈がない人物が母でも、カルナはカルナだ。
ゆでだこみたいになりながら、カルナは何度もウンスウンスと頷いた。
また一人、新しい仲間ができた……そう思った瞬間、トゥリフィリの耳を悲痛な叫びが貫き突き刺さったのだった。