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 ハントマンと呼ばれる者たちの生業(なりわい)は、単純にマモノと戦うだけではない。
 むしろ、街での何でも屋といった仕事の方が圧倒的に多かった。そして、仕事の内容に貴賤(きせん)はない。あの日からスズランも、小さな仕事をいくつか仲間とこなしていた。
 今日も、小さな少女の願いを引き受けての一日が終ろうとしていた。

「はい、どうぞ。ご依頼の品、マスクナッツの落とす木の実、三つです」
「わあ、ありがとうっ! ハントマンのお姉ちゃん!」

 依頼人の少女は、破顔一笑(はがんいっしょう)で木の実を受け取る。なんでも、旅立つ兄のためにお守りを作ってやりたいのだとか。それはあとは、野生の獣が集めたこの木の実をつけるだけだった。
 少女はスズランたちの目の前で三つのお守りを作ると、その一つを差し出してきた。

「はいっ! こっちはお姉ちゃんにあげる!」
「まあ、ありがとうございます。ふふ、大事にしますね」
「このお守りがあれば、きっとお兄ちゃんは無事に帰ってこれるから……だからね、わたしね、明日は笑顔で送り出そうと思うの」

 それだけいうと、何度もお辞儀してから少女は去っていた。
 夕焼けの中で何度も振り返り、その都度手を振って小さくなってゆく。
 今日もまた、ギルド『スノウドロップ』の面々は一仕事を終えたのだった。

「さあ、報酬を受け取りに行きましょう、皆さんっ!」
「まあ、たった8Gですけどね、マメシバ」
「でもレオパ、それはあの女の子が頑張って貯めたお金だから」
「ええ、ええ。今日の四人の夕食代くらいにはなりますね」

 カザン共和国の空が真っ赤に染まり、そこかしこの家から夕餉の支度をするいい匂いが漂ってくる。そんななか、ふとスズランが見やれば……優しい横顔でナガミツがいつまでも女の子の背中を見送っていた。
 だが、視線に築くと気恥ずかしそうに頭をバリボリかく。

「よ、よかったじゃねえか。それに、手近な弱いマモノから慣れてかないとな、スズラン」
「は、はい。今日は初めて……初めて、自分でマモノを仕留めました」
「上出来じゃねえか。さ、行こうぜ」

 そう、今回のクエストの報酬は、たった8G。あとは、さっきもらった小さなお守りだけだ。でも、ハントマンたちは仕事を選ばないし、どんなクエストでも誰かが必ず解決してやるのがならわしだった。
 初心者には初心者の、ベテランにはベテランのクエストがあるのだから。
 マメシバとレオパを追って、ナガミツも歩き出す。
 その横に並んで、スズランも温かな影を長くいて歩いた。
 すると、大通りの向こうから見知った顔が三人でやってくる。

「むい! あれはスズランと、ナガミツ、マメシバにレオパなのです! お疲れ様なのですっ!」
「ういー、ナガミっちゃんもみんなも、オツオツー」
「皆さんは今、仕事上がりですか?」

 ユイとニーナ、そしてノリトだ。
 三人は旅装に身を固めて、荷物を背負ったマント姿だった。
 聞けば、これから引き受けたクエストのために、ミロス連邦国まで行くという。明朝からの出発でもよかったのだが、半端な時間だったため、逆に闇夜に忍んで移動してしまうというもくろみだ。
 街の外も夜になると、より凶暴なマモノが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するようになる。
 だが、逆に夜しか狩れないマモノもいるので、ハントマンたちは情報の共有を密にするのだった。

「ノリト、これ。こっちで遭遇したマモノのリストなんだけど」
「おや、これはありがたい。うちのリストにないマモノもいくつかありますね」
「結構クエスト片付けてきたからねえ」

 早速マメシバとレオパが、ノリトと互いのメモ帳を見せ合っている。
 どんなマモノと遭遇したか、どんな素材やアイテムが手に入ったか。
 これらは大事な情報であり、無知は死を意味するから三人共大真面目だった。
 いっぽうで、今日もユイは元気いっぱいだ。

「ナガミツッ、わたしもこの間、こーんな、こおおおおんな大きなマモノを倒したです!」
「いやお前、どうみても話を盛ってるだろ。どうだ? 剣の修行の調子は」
「バッチリです! ……素振りのしすぎて毎日、筋肉痛なのです」
「あんまやりすぎんなよー、って、ミロス連邦国? へえ、そんな国もあるのかよ」

 なんだか、ユイを見下ろすナガミツの視線が優しい。
 スズランもなんだか、そんな二人を見てると頬がほころぶ。
 二人はなんだか、兄と妹みたいで、不思議とそれ以上の絆が感じられた。
 そこだけ少し気になるかと思っていると、ニシシとニーナが寄ってくる。

「あの二人、仲良さそうでしょ?」
「え、ええ……この間知り合ったばかりなのに、もう」
「もう、何百年も、もっとかな。そういう仲だから。でも、恋とか愛とかじゃないから」
「そ、それは……って、ええっ!? わ、わたしは別に、そういうことは」

 ニーナの話で初めて知った。
 ナガミツは、遥か太古の滅びた文明が遺した、人型の戦闘機。いうなれば戦うための人形だ。そして、本来は戦うことが目的ではなかったという。
 確かに、どこか人間離れしたところがあるようにも思えていた。
 その正体をレオパは興味深そうに調べているが、本人はごく普通に時代に調和している。
 でも、確かに謎の異邦人といった雰囲気もあって、それが時々スズランに寂しさをもたらしていたのも確かだった。
 だが、そんなスズランの気も知らずに、ナガミツは無邪気に笑っている。

「わはは、小せえなあ! ほれほれ、ユイ、手も足もでねーかよ」
「むいーっ! わたしもおば様や母様みたいに、きっと背が伸びるのですー!」

 小さなユイが両手をばたつかせているが、ナガミツの長い腕がオデコを抑えているので全く届かない。遊んでやってるのか遊ばれてるのか、とにかく二人は賑やかだった。
 だが、夕闇迫る逢魔(おうま)が時、三人は別れを告げて旅立っていった。

「またいつか、なのですっ! むいっ!」
「おう、気をつけて行けなー? さて、スズラン。俺たちも行こうぜ」
「は、はいっ」

 ギルド『ハバキリ』の三人を見送り、自分たちもハントマン事務所に向かおうとした、その時だった。
 突然、突風が吹いて大通りを突き抜ける。
 思わず髪を抑えたスズランは、斜陽の光に小さなつぶやきを拾う。

「チッ、なんだ? ……嫌な風が吹いてるぜ」

 確かに、冷たく凍えるような北風だった。
 だが、遠くへ視線を放るナガミツの顔に、奇妙な緊張感が走る。
 それは、スズランにもなにか小さな不安をもたらしてくるのだった。

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