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 ――学術都市(がくじゅつとし)プレロマ。
 真っ赤に染まった大地が、まるでさざなみを寄せるように揺れている。そんなフロワロに囲まれた中でも、そこには必死に抵抗する人類の健気な努力が見て取れた。
 ナガミツたちがフロワロを駆除しつつ辿り着くと、街の皆が驚きに目を見開く。

「おお、救援か? あんたたち、どこの国から来なすった!」
「さっき、派手に飛空船が墜ちたようだがあれに乗ってたか?」
「っていうか、ノリト! お前ノリトじゃないか! 今までどこに?」
「なに? ハントマンになっただあ? 薬学部でも有数の秀才が」

 ほうぼうから集まる者たちは皆、同じ服を着ていた。どうやら、彼らこの街で学ぶ学徒の制服らしい。その何人かは、記憶喪失のノリトを囲んで混乱の渦中に詰め込んでいる。
 そのトンチキなやりとりをよそに、ナガミツはぐるりと周囲を見渡した。
 このプレロマだけは、他の国より数世紀先をいっているのかもしれない。
 そうはいってもせいぜい旧世紀……西暦18世紀後半レベル、団栗(どんぐり)の背比べではあるが。

「へえ、大したもんだな。プレロマは流石(さすが)だな。……それでも、こんだけ科学文明があっても竜災害相手にはちとキツいか」

 今までのエデンでは、どこもせいぜい中世レベルの文明だった。だが、ここは違う。エデンの頭脳と言われた学術都市は、まさに産業革命直後を思わせる活気に満ちていた。
 そして、人混みをかき分けるようにして聞き覚えのある声が近付いてきた。

「ええい貴様ら! 授業に戻れ! 当番の者はフロワロ駆除作業を再開しろ! まったく」

 一瞬でナガミツの記憶が数百年も巻き戻る。
 そう、いつでも憎悪(ぞうお)憤怒(ふんぬ)に燃えてる人だった。人間じゃないが、その紅蓮(ぐれん)の炎は己さえ焼き尽くさん勢いだった。自ら憎しみの権化(ごんげ)だからだと寂しく笑っていた。
 間違いない、かつてナガミツたちを率いて竜災害と相克(そうこく)したあの声だ。
 そして、学徒たちを押しのけるようにして小さな少女が現れる。

「フン! 久しぶりだな、ナガミツ。ふふ、酷い(ツラ)じゃないか、ええ? よく目覚めてくれた、礼を言おう」
「! ……エメル」
「そうだ、なにを驚いている? 私たちは思念生命体だ。この身に胸に、その中に……憎しみが燃える限り、私は不滅の存在なのだからな」

 そう、エメルだ。
 アイテルの姉エメルもまた、悠久(ゆうきゅう)(とき)を経て再びナガミツと再会したのだった。
 仲間たちが双方を交互に見て首を傾げる中、アダヒメも一歩前へ出る。

御無沙汰(ごぶさた)しておりますわ、エメル」
「……アダヒメ、貴様もやはりな。その滅竜の輪廻を呪い祈ったのは、この私なのだから」
「おかげでこうしてまた、キリ様のおそばに。全ての竜を狩り尽くすまで、この命をわたしは燃やしていきましょう」
「互いに燃え尽きれぬ宿命(さだめ)だな。まあいい、よく来てくれた!」

 改めてエメルは、ナガミツの仲間たちを見渡す。
 そして、最後にナガミツを見据えて大きく頷く。

「人類の血とは不思議なものだ。あの時代に見た顔がそこかしこに……というか、シイナ!」
「ニーナでーす。わたしは二人目だから……なんちって。なんだぞい?」
「お前の馬鹿姉をなんとかしろ! 連絡は取れんのか。ホムンクルス同士だろうが!」
「あー、お姉ちゃんはフリーダムだから。……でも、今も竜と戦ってるよん? きっと、絶対」

 マメシバが目を丸くして驚いていたが、本当の話である。ニーナはホムンクルス、かつてナガミツの仲間たちが生み出した人造生命体である。

「え? え、ちょっと待って、ニーナさん……ホルモンバランス!?」
「ホムンクルスです、マメシバ。……(いにしえ)の文明が生み出した錬金術の結晶。人造生物だったのですね、通りで超人じみた身体能力な訳です」
「それだけじゃないぜ、レオパ! きっとニーナさんは努力も欠かさないタイプの女性だ。俺が騎士として目指す道の、遥か先に彼女はいるんだ」
「……人間かどうかの前に、まずですねマメシバ……まあ、面白いからいいでしょう」

 久々に会ったエメルは、以前と変わらぬ不遜で頑固な敵意の塊だった。だが、そんな彼女がナガミツの仲間たちを見るまなざしは優しい。ナガミツ自身を見上げる華奢(きゃしゃ)矮躯(わいく)など、慈しみのぬくもりすら感じられるものだった。
 エメルはヒュプノスと呼ばれる異星の民である。
 竜災害で母星が滅び、姉エメルと妹のアイテルだけが生き残った。
 否……生きているとは言い難い概念的存在になってしまったのだ。二人は全宇宙のそこかしこで竜災害から知的生命体を守ろうと久遠(くおん)の刻を彷徨(さまよ)っている。
 二人の加護を得た地球はエデンになった今も、なんとか持ちこたえていた。

「ハントマン諸君! 改めて名乗ろう。私が学術都市プレロマの(おさ)、エメルだ!」
「こんな、小さな女の子が……!」
「見た目で全てを判断するといつか失敗するぞ、若きプリンセス。名は?」
「あっ、はい! スズランと申します、エメル様」
「エメルでよい。フン、危うく見えても一人前ではないか。頼らせてもらうぞ」
「は、はいっ!」

 エメルはスズランを見て、懐かしげに目を細める。
 それは確かに、ナガミツが日々感じ取っていた名残を拾うような視線だった。
 そう、、スズランは似ている。
 全く共通点がなく、真逆ですらあるのに感じるのだ。
 かつて地球と呼ばれた星の日本で、竜殺剣を手に駆け抜けた少女に。
 類似点は皆無だが、スズランの素朴な歌と……そこに込められた炭火のような情熱が似ているんだとナガミツも思っていた。どうやらエメルも同意見のようだった。

「では、さっそく話を進めたい。ナガミツ、そして今の羽々斬(はばきり)の巫女キリコ……その仲間たち。付いてきてもらおうか。今、この地球……エデンは破滅の危機に瀕している」

 エメルが歩き出すと同時に、周囲の者たちも散り散りに各々の作業にもどってゆく。
 そんな中、ナガミツたちに駆け寄ってくる子供たちがいた。

「お疲れ様です、ハントマンの皆様! お荷物お持ちしますね!」
「このあと緊急会議が行われますが、30分の小休止が許されています」
「シャワーを浴びたい方は仰ってくださいね。そう、シャワー……それは人類の叡智(えいち)
「あ、ここでの叡智は、いわゆるスラングのえっちとは違う話です。シャワー、わかるかな? プレロマにしかない設備だけど」
「熱い湯で汗をぬぐい落せば、さっぱりしますよ! さ、どうぞこちらへ!」

 ナガミツは再度驚いた。
 去ってゆくエメルと入れ違いに現れた二人の子供は、見た目に反して高い地位を得ているらしい。周囲の学徒と同じ制服でも、その胸のリボンや襟章(えりしょう)が違う輝きを放っている。
 なにより、そんな二人の顔立ちにナガミツは絶句し、そして笑顔になった。

「ムツ! それにナナも! ……そうか、お前たち……血を残したんだな。次代へ繋いだんだ……ムツとナナは。ナビゲート用のデザインチャイルドでも、確かにここに」
「あの、ええと、ナガミツ様? その名は」
「アダヒメ様もたまに来て言うけどさー、ムツとかナナとかなに? オレはリツ、こっちはナミ。……まあ、でもその名で呼ばれるとなんか、ウズウズするんだよな」
「ですです! ささ、とりあえずこちらへ。ハントマン様御一行、どうぞこちらへ〜」

 こうしてナガミツたち一行は無事にプレロマへと到着を果たした。
 ここから世界を一つに束ねるエデン最大の大事業が始まる。人類が竜災害に対して本格的に反撃の狼煙(のろし)をあげる、その直前での懐かしさはナガミツを不思議と心安らかな喜びで満たしたのだった。

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