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 熱砂の大地が泡立ちにらぐ。
 沸騰(ふっとう)した空気が、ナガミツの視界を陽炎(かげろう)のように揺らめかせた。
 ここはデ=ヴォ砂漠……その深奥。砂の海は灼熱の死地、常人ならばすでに帰路は断たれて乾き死ぬしかない。そんな場所でナガミツたちは死闘を演じ、その後に生き残って生きて帰ることだけを考え戦っていた。

「むいっ!? 思ったより硬いです! 全くダメージが通らないのです!」
「いったん距離を取るぞ、キリッ! ……その手、火傷(やけど)だらけじゃねえか」

 前衛を務めるナガミツは、キリコの襟首をひっ掴んで跳躍する。二人が一秒前にいた場所が、紅蓮(ぐれん)の炎に包まれた。砂はあまりの高温で硝子(ガラス)と化し、その(きら)めきが白煙の中に散りばめられる。
 帝竜、フレイムイーター。
 獄炎の支配者にして、生きた(ほのお)
 その脅威が今、ナガミツたちを焼き尽くすためにのしかかってきた。

「ナガミツッ! キリコも! ここは俺が……仲間を守って受け止める!」

 マメシバが小柄な身に鎧を歌わせながらすれ違った。
 フレイムイーターから放たれた炎の散弾が、彼の構えた盾を赤熱化させる。圧倒的な火力は今までの帝竜とは段違いで、ナガミツは脚を使って火焔(かえん)の流れ弾を避けるしかできなかった。それは、両の手を真っ赤に火傷したキリコも同じである。
 すぐに二人のヒーラーが攻防一体の行動で窮地を救ってくれた。

「キリコ! ナガミツも! 今、治療を」
「その間の時間は、私が……とっておきの毒薬があるんですよ」

 必死の形相(ぎょうそう)なノリトに対して、あくまでもレオパは冷静だった。ナガミツたちに駆け寄るノリトごと、ナガミツを守って前に立つ。
 レオパは軽装で貧弱な防御力を忘れたかのうように、フレイムイーターの矢面に立った。
 思わずマメシバの声が走る。

「危ない、レオパッ! 前に出過ぎだ!」
「いえいえ……零距離(ゼロきょり)、取りましたよ。竜も生物、生命体……私の毒が通る(はず)っ」

 上着のポケットへと、レオパは両手を突っ込む。同時に危ういステップで回避すれば、彼がいた場所に炎の柱が屹立(きつりつ)した。だが、身を投げ出して転がりつつ、立ち上がったレオパが地を蹴る。
 その両手は、全ての指が毒色の試験管を握り締めていた。
 そう、まるで獣が爪を剥くように、レオパの十指が無数の試験管を掴んでいたのだ。

「まずはおとなしくしてもらいましょうか。舞い散れ、溶け広がれ……我が渾身の毒よ」

 投擲(とうてき)された試験管の全てが、フレイムイーターのブレスで粉々になる。欠片も残さず消滅する中、そこから紫色の気体が広がった。
 それは、レオパの日々の研鑽の産物。
 ヒーラーとして治療や医療の技術を修める中、独自に研究してきた毒素の叡智(えいち)である。解毒のために毒を知る、そうしてヒーラーを名乗るハントマンたちは毒の研究に長年の人生を捧げてきた。
 毒と薬は表裏一体、それはノリトも同じである。
 だが、レオパは少し違った。
 薬のために毒を知るのではなく……毒を求めて薬の(ことわり)を身に受けたのである。

「いまですっ、スズラン! 歌いなさいな、あなたの歌を。あなたの騎士の、(ほまれ)(いさおし)を歌うのです!」

 アダヒメが叫んだ、その時にはもうナガミツも態勢を立て直していた。そして、無理に前に出ようとするキリコを抱きかかえるや……アダヒメに向かってブン投げる。全身に炎を纏う帝竜に対して、無手の体術は不利なのもある。それに、アダヒメに投げれば必ず守ってくれる、そういう数百年レベルの信頼がナガミツにはあった。
 そして、走るナガミツの背をのんびりとした緊張感のない声が叩く。

「マメシバー、これ。やっぱキミが使いなよー? どうせ拾い物だけど……これは、キミの剣。本当の騎士の、騎士たらんとするキミだけの剣だよー。よーいしょっとー!」

 ニーナが何かを放った。
 それがナガミツには、剣に見えて先日を思い出せる。鉱山での労働で武具を鍛え、そのあとは世界協定の締結を目標にアチコチで竜を討伐してきた。
 その剣は、そんな旅路のさなかで偶然拾ったものだ。
 まるで、拾われるために埋もれていた、なんの変哲もない両刃の長剣である。
 それを今、ニーナはマメシバに投げつけた。
 ガン! と後頭部にそれを受けてふらつきつつ、マメシバは(さや)を手にして身構える。

「ニーナさん!? これは、拾った時にニーナさんがって」
「んー、アタシ得物はこだわりないから。でも、さ……その剣は真の騎士を求めてる」
「真の騎士って……俺が!?」
「マメシバ以外に誰がいんのさ。アタシはチートキャラだからほら、もう……これ以上は強くならない強さだから」

 スズランの歌が響き渡る。その声がマメシバに特別な波長を放っているのがナガミツには見えた。見えたように錯覚するほどに、今日のスズランの歌は深く濃密で、それでいて軽やかで弾んでいた。
 そして、姫を守る騎士にしか使えぬ奥儀をマメシバは全身で叫んだ。

「騎士とは……国と民と! 美しきご婦人のために戦う者!」

 瞬間、しゅぼん! と真っ赤になってスズランの歌が途切れた。
 同時に、古びた謎の剣が鞘走(さやばし)る。
 偶然拾った、それが運命。
 マメシバは、終生の相棒を解き放った。

「お前が本物なら……応えてくれっ、デュランダル! ――セイブザクィーンッ!」

 白刃が煌めき、邪悪な炎さえも見えない太刀筋で気圧(けお)してゆく。
 その名は聖剣デュランダル……ナガミツの時代、欧州の祖と呼ばれし大帝の剣。神話の時代を抜け出て文明を得た人類が、それを再び忘れた今にこそ蘇る刃だ。
 それをマメシバは、大上段に構えて跳躍する。
 見上げるナガミツさえも、その雄姿を太陽の中に見失った。

「我が姫に栄光を! 我らが国と民に平穏を! ……竜災害に終わりを!」

 光が走って、一瞬遅れて音が響く。
 それはフレイムイーターの断末魔と、吹き出す鮮血のハーモニー。マメシバの渾身の一撃は、狙いたがわずフレイムイーターの首を両断していた。
 それでもまだ、落ちた首がビチビチと砂の上で飛び跳ねている。
 全身全霊の一撃を放ったマメシバが片膝を突いて静止する中、ナガミツは勝機を見定め駆け出した。それは、キリコが飛び出すのと同時だった。

「トラップで爆散させる! 作薬量をギリ限界まで詰め込んだ一発だ。下手をすれば俺たちも巻き添えに」
「そうはさせないです! 絶対にそうはならないのです! なぜならば!」

 人智を超えた再生能力で、よろめく肉体に首を寄せてゆくフレイムイーター。その火と火が交わり再び炎になることはなかった。
 ナガミツは、戦闘中も合間を見て作成していた特大トラップを振りかぶる。
 ナイフで口をこじ開け、フレイムイーターの中へとその爆発物を押し込んだ。
 それは、キリコが渾身の後ろ回し蹴りで首を吹き飛ばすのと同時。
 空に真っ赤な血の花火が上がって、残された肉体も急激に(しぼ)んでゆく。
 こうしてナガミツたちは、帝竜フレイムイーターを無事に撃破したのだった。

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