ついにニカノール達は到達した。
第四階層『
先程の謎の少女が言うには、この迷宮には恐るべき魔物が行く手を塞いでいる。
この水晶の森の主、全身がクリスタルで出来た水晶竜だ。
ニカノールは四人の仲間達を振り返り、それぞれの頷きを拾う。
「よし、じゃあ……行こう」
紫色に輝く水晶が、瞬時に別の場所へとニカノール達を転送する。
無論、魔力の働いた形跡はない。
思えば、この世界樹の迷宮には不思議が満ちていた。外の世界、四つの種族が共有する
そんなことを考えていると、突然目の前の視界が開けた。
「――っ!? こ、ここは……!」
巨大な広間にニカノールは立っていた。
すぐ隣で、ワシリーサが息を呑む気配が感じられた。そして、彼女の見開かれた瞳が見つめる先へ、ニカノールの視線も吸い込まれる。
そこは
正しく、水晶細工の巨大なドラゴン……水晶竜。
殺気をはらんだ眼光に射抜かれ、ニカノールは全身が硬直するのを感じた。あらゆる知識と経験が、恐るべき敵だと告げてくる。肉体も精神も、戦うことを拒んでいるのだった。
周囲の仲間達も同じかと思った、その時だった。
「おおー、本当にピッカピカなのです! ……つまり、あれは! 竜水晶が、たっくさん、取れるのですー!」
突然、右腕をブンブンと振り回してノァンが駆け出した。
真っ直ぐ、放たれた矢の用に突っ込んでゆく。
そして、水晶竜の絶叫が空間を震わせた。
次の瞬間には、怒りに
吹き飛ばされたノァンが落ちてくる。
すぐにスーリャが受け止めたが、元気な声に一同は安堵の溜息を零した。
「なんか、凄いの出たです! ビガビガーってしたです」
「ノァン、あの……」
「大丈夫なのです! スゥ! ニカもワーシャも、ついでにコッペペも! ここはアタシに任せるのです!」
飛び起きたノァンは、再び走り出した。
心配そうに見守るワシリーサが、オロオロとしてしまう。
そして、ニカノールは顔を手で覆った。
再び「ギャフン!」と悲鳴を叫んで、ノァンが戻ってきた。全身から白煙が立ち上る中、頭からは知恵熱で発生した湯気が揺らめいている。
「これ、おかしいです! 水晶竜に辿り着けないです!」
「あ、あのね、ノァン。ちょっと、やりかたがまずいよ」
「ニカ……そ、そうかもです」
「もっと頭を使わなきゃ。安心して、僕にいい考えがあるよ!」
こういう時は、弱気を見せないこと。そして、自信がなくても笑顔を忘れない。
以前、ギルドマスターとしての作法や心意気を、デフィールが教えてくれたのだ。そして、ニカノールに今、それを実践するまたとない機会が訪れたのである。
だが、ノァンはポンと手を叩くと、再び水晶竜へと突進し始める。
「あ、ちょ、ちょっとノァン! 頭を――」
「うりゃりゃりゃりゃーっ! 頭、使う、ですー!」
勢いよくジャンプしたノァンが、そのまま頭から水晶竜に突進した。
だが、彼女のダイビングヘッドバッドが、そのまま三度ブレスに薙ぎ払われる。
二度あることは三度ある、再び彼女はニカノールの足元に落下してきたのだった。
そんな彼女を抱き起こし、優しく言葉を選ぶ。
「頭を使え、はね……そういう意味じゃないよ、ノァン」
「むむむ……アタシは難しいことはわからないです。ニカ、こういう時こそニカの出番なのです!」
「だろ? ふふ、任せてよ……ノァン、君は一人で突っ込むからいけないんだ」
「たしかに!」
「だから……
「それです!」
あうあうとワシリーサがなにかを言いかけていたが、それを無言でコッペペが止める。重々しく首を横にふるコッペペが、その悟りきった目が全てを語っている気がした。
だが、ニカノールはノァンと走り出す。
真っ直ぐ、そして徐々に左右へと別れながら。
「ニカ、頭いいのです! アタシが水晶竜を引きつけて!」
「あるいは僕でもいい! どちらかが、水晶竜の元へと――」
だが、実際に突っ込んでみてわかった。
知識と予測は大事で、なにより経験がそれを証明してくれる。
容赦なく水晶竜は、長い首を振ってのビレスを解き放った。
点と線の一点突破ではなく、面を薙ぎ払う制圧攻撃……あっという間にニカノールは、ノァンごと元の場所へと吹き飛ばされた。
死人のアンデッドでも、ちょっと辛い。
なにより、心底心配して駆け寄るワシリーサに対して居心地が悪かった。
そうこうしていると、ボソボソと声が
「ノァン、ニカも。その……私、少し、歩いてきた、けど……正面は、ダメ」
「……へっ? あ、あの、スゥ……歩いてきた、って」
「うん……ニカ、私は周囲を調べてきた。思ったより、広い。あと……水晶竜は、大きい。だから、動きは鈍い。もっと、サイドのスペースを使って詰め寄れば」
ニカノールはノァンと同時に「あっ!」と声をあげてしまった。
それで、
確かに、水晶竜はあの場から一歩も動いていない。恐らく背後の階段を守ってるのだろうが、閉鎖空間であの巨体が攻めてくれば、ニカノール達の苦戦は必至だ。
だが、水晶竜は動かない。
恐らく、巨体の重さ
「首と頭とを見て、横と縦に動く……私が、やってみる」
「あっ、スゥ様。スゥ様が行くのでしたらわたしも」
「まあ、急がばまわれってことだなあ。ほれ、ニカもノァンも、立ちなって」
コッペペに手を貸されて、おずおずとニカノールは立ち上がる。
凄く、気まずい。
ノァンもぐぬぬと悔しさを隠そうともしなかった。
「そ、そうだね、うんうん! 僕は気付いていたよ。ただ、こうして不死の肉体をもつからには」
「そ、そうなのです! アタシとニカは、承知の上で違う道を探してたです」
「でもノァン、ここはスゥ達の案でいく方が良さそうだね、うんうん」
「ですです! スゥはやればできる子、偉い子なのです!」
コッペペのフラットな視線が痛かったが、気を取り直して水晶竜へと挑む。
一定の距離まで近づいた時、すぐ横を水晶の嵐が通り抜けた。
横軸への移動を使ったため、今回はダメージを
そして、ブレス攻撃を大きく迂回すると……水晶竜はゆっくり首を巡らせた。
そう、ゆっくりと、どこか
「よしっ、みんな……次のブレスを正面側に避けて、そこから勝負といこう。行くよっ!」
再び迷宮全体を震わせ、恐るべきブレスが放たれる。
それを大きく回避した瞬間、ニカノールは