逆巻く光の
それが、
まず攻撃ありきの、害意と悪意で燃え盛る
まるで全てが漂白されてゆくような錯覚の中、ニカノールは見た。
「ッ、グ! あ、ああ……エランテ! クァイ!」
そこから広がるほのかな、とても優しい光が炎に拮抗している。
とても
静かに、そして確かに光の盾が若草色に輝く。
その影に守られて、ニカノールたちは消滅の危機を免れていた。
だが、おぞましい叫び声と共に星喰が震えれば、視界が輪郭と色彩を奪われる。
そして、気付けばニカノールは……なにもない場所に立っていた。
無に満ちて、静寂。
天も地もなく、時間と空間も感じられない。
ただ、目の前になにかがいた。
そこだけが黒く歪んで直視できず、気配と存在感だけが薄れながら揺れている。なにかが消える間際の、その瞬間が永遠に引き伸ばされているのだ。
そしてニカノールは、小さくなってゆく魔性の正体に気付いた。
「……そこにいるのは、クァイ、なのかい?」
頷くような気配があった。
そして、くぐもる声が苦しげに絞り出される。
「ク、ハ、ハハ……不意打ちたあ、身も蓋もない野郎じゃないか。なあ、ニカよう」
「そう、だね。でも、君が守ってくれたんだよ?」
「夢を、喰っちまったからなあ。あの子の、夢を……知っているかい、ニカ。あの娘の、エランテの夢を」
聴こえる声が遠ざかるような、薄れてゆくような感覚があった。
目の前で
「エランテは、小さな名も無き村の娘でな……地図にも載ってない田舎だ。でも、あの子は……冒険者になりたかったんだ」
初耳だ。
常にエランテは眠っていて、彼女の身体を借りて戦ってくれるのは常にクァイだった。そのクァイが宿主を語るのも初めてで、でもそれがとても自然に思える。
「知らなかったよ、クァイ。でも、今知った。ならもう、わかったよ」
「……頼める、か?」
「
「ク、ハハ! ハ! 知っていたよ。ハハ……ニカ、お前は、本当に」
――
それだけ言って、影が
その中から確かに、ニカノールは小さな女の子を受け取り抱き締めた。
なにもない無が
そして、不意に意識と感覚が現実に戻ってくる。
気がつけばニカノールは、
「……受け取ったよ、クァイ。夢は、味わえたかい?」
返答はないし、聞く必要もなかった。
そして、頭上には今……見難い顔をひきつらせる星喰の姿が浮かんでいる。
初手から恐るべき攻撃をしかけてきたが、その様子が妙だ。
それに最初に気付いた男が、そっと盾を構えて前に立つ。
「よお、ニカ……ひょっとしてオイラたち、クァイの旦那にでかい借りを作っちまったかい?」
「そう、みたいだね。なら、借りは返すだけだ」
「そうでなくちゃな。どれ……おっぱじめようじゃないの」
コッペペが銃を抜けば、他の者たちも即座に身構えた。
みんな、無事だ。
怪我一つない。
クァイが、エランテが守ってくれたからだ。
恐らく、ブラニーのユニオンスキル……イージスの盾と呼ばれる絶対防御の法がなければ危なかっただろう。この場所は消滅し、ニカノールたちは骨すら残らない。
そして、アルコンの哀しみと世界樹ごと、この惑星は喰われる。
だが、そうはならなかったのだ。
星喰の
「みろよ、ニカ……やっこさん、初っ端から気合い入れすぎたせいか、お疲れのようだぜ?」
コッペペの言う通りだった。
星喰は苦しげに
その全身から、
他の仲間もそう思ったのか、真っ先にノァンが気勢を叫ぶ。
「ニカ! みんなも見るです! 星喰がべっこり
そう、中央の核ブロックを残して、あっという間に星喰は丸裸になってしまった。
罠かもしれないという警戒心もささくれ立つが、ニカノールにとっても答えは一つしか思い浮かばない。
そっと横に並んでくれたワシリーサに、眠るエランテの身体を預ける。
そして、即座にニカノールは周囲に三体の死霊を呼び出した。
「よし、やろうかみんな……今度は僕たちの番だ。星より重い一撃、たらふく喰らわせてやろう」
「ええ、ニカ様! わたしも援護します。わたしは、ワーシャは……初めて許してはならぬものを知りました!」
珍しく、あの温厚で穏やかなワシリーサが怒っていた。
端正な表情が今、凛々しく引き締められている。
彼女の大きな瞳は、苦悶に喘ぐ星喰を見定めていた。
そして、そんなワシリーサに影のように寄り添う長身も大鎌を
「ニカ、そしてノァン。ついでに、コッペペ。ワーシャは私が必ず守る」
「おいおい、オイラはついでかい? スゥちゃんよぉ」
「コッペペからも守ろう。悪い虫がつくのは、それはいけないことだからな」
「トホホ……オイラってば信用ないのね。んじゃま」
へらりと笑ったコッペペの表情が一変した。
最前線に立つ彼の背中が、いつもの何倍も大きく見える。
そこには確かに、初めて本気を見せる熟練冒険者の姿があった。
「みんなで星喰をやっつけて、逆にお星さまにしてやるです! ううぅ〜、わあああっ!」
気迫を叫んで、ノァンが走り出す。
ニカノールも死霊を操り、改めて戦いを仕切り直した。
真の死闘が幕を開け、未来が天秤の上で揺れ始めた瞬間だった。