絶体絶命の危機。
それを今、ジルベルトは言葉ではなく肌で感じていた。
自明、理解、把握。
どう考えても絶望的な状況だった。
それでも、気付けば仲間へ叫んで走り出していた。
「まひろっ!」
「はいです!」
「ん、いいお返事!」
「弱い子二人はわたしが守るです! ドーンとお任せなのです!」
「んー、言い方、言い方。でも、頼むね!」
すぐにジルベルトは走り出す。
その視界の隅で、
こういう時は、とても頼りになるし心強い。
そして、脚を使うジルベルトの横に影が並んだ。
全く呼吸も乱さず、真顔でユーティスが並走してくる。
「ジル、方陣の中で戦うことを提案します。回復の援護が得られるかと」
「
ミスティックと呼ばれる術師たちが扱う秘法、方陣術。
一定の範囲に精神力を広げ、光を
死闘の地と化した広間の大半を、柔らかな白い光が波打ち走っていた。
「さーてぇ、まずは腕だねぇ。ほいよ、っと」
カラブローネの声は普段通りで、
いつもと変わらぬ気の抜けたその言葉に、ジルベルトの緊張が弛緩してゆく。
そう、普段と変わらず戦える
例え相手が獣王ベルゼルケルでも、決して
その獣王ベルゼルケルだが、不意に唸ってよろめいた。
「腕封じの術が効いた!」
「ようですね。では、今のうちに」
シュッ、とユーティスの姿が隣から消える。
次の瞬間には、両腕を抱えて震える獣王ベルゼルケルが絶叫した。耳をつんざくおぞましい
跳躍したユーティスから、
その一本が、見事に獣王ベルゼルケルの右目に刺さっていた。
毒を塗り付けたもので、ぐらりと巨体が揺らぐ。
手の指で抜こうともがくが、暴君の剛腕は痺れるように宙を掴むだけだった。
「毒だ……よし、しかけるっ!」

加速するジルベルトが風を呼ぶ。その気流が光を
迷わずジルベルトは、抜剣の光に冷気を呼ぶ。
雪の結晶が刃を彩り、鋭い絶対零度の一撃が放たれた。
一拍の間を置いて、ジルベルトの残像が傷を同じ技で
「い、いけるね……うん、私たち戦えてる!」
「おうてばよっ! んでっ、体勢を崩したとこにいいいい、うらさーっ!」
間髪入れずに、砲剣を大上段に構えて影が飛ぶ。
もはや御令嬢の仮面をかなぐり捨てて、必死の形相でリベルタが落ちてきた。
真っ正面からの
渾身のアサルトドライブだった。
ジルベルトと同時に一歩引いたリベルタの手で、白煙を巻き上げ砲剣が冷却に入る。
「どやっ! ……な、なんか、これ……いける感じじゃん?」
「油断禁物だよ、リベルタ。でも、うん……手応えがあるっ!」
だが、新米冒険者たちの攻勢もここまでだった。
腕の感覚を取り戻した獣王ベルゼルケルは、恐るべき一撃を振り下ろしてくる。当たるどころか、
しかし、大地が割れてひび割れても……方陣の光はたゆまず輝きを増していた。
「ん、ユーティス。麻痺入れとくか……ほい、ほい、ほいっと」
「
老練なる
再び暴れ始めた暴力の権化を、方陣はその姿を変えつつ包囲して塞ぐ。
そして、今度は獣王ベルゼルケルの全身が痙攣に震え始めた。
その瞬間を見逃すジルベルトではない。
「今だっ! リベルタ!」
「冷却完了まで60秒ってとこかな、ん……やったらんかーい!」
半ばヤケクソ気味にリベルタが
その手がひきずる巨大な砲剣が、地面をひっかき赤く
続くジルベルトの脳裏に、即座に連携の方程式が組み上げられてゆく。
「オーバーヒートしてたって、当たれば痛いよん?」
呻いて一歩、暴君が下がった。
その間隙にジルベルトは、全身を押し出し剣を振るう。
さらなる一撃が重ねられて、残像が正確にその
「っ、やべ! もうちょい! もうちょい時間頂戴! 冷却終了まで、あと15秒」
「なら、あと一撃? ううん、足りない……あと二撃!」
よろけながらも、
だが、獣王ベルゼルケルのパンチは一瞬でまひろの残像をかき消した。
そして、やや減速しつつもジルベルトの盾を真芯で捉える。
激しい衝撃に吹き飛び、それでもジルベルトはなんとか残像を絞り出す。やや
「あーもぉ、あと少し! 少しなんだけどさぁ」
「リベルタ、そういう時はふーふーするです! 兄様がいつも、熱い食事はふーふーしてくれるです!」
「それな! ……って、そういう話じゃ――きたっ! この瞬間を……待っていたあああっ!」
攻守逆転の危機かと思った。
だが、その男は静かに戦いの行間に描写を刻む。言葉にならない無音の殺意……ユーティスは皆の前に割り込むや、漆黒のクロークを
それは、冷却終了を砲剣が歌うのと同時。
「みんな、離れて! っ、ああああっ! 当たってえ、砕けえええええっ!」
リベルタが身を浴びせるように、両手で引き絞った砲剣を突き立てた。獣王ベルゼルケルの
刹那、体内深く刺さった砲剣がフレイムドライブの業火を炸裂させるのだった。