ウカノにとっての、悪夢のような一日が終わった。
開けて今朝、保護してくれた冒険者たちのおかげで新しい一日を迎えることができたのだった。
「でも、ここは……飛行都市マギニア。なんだか、
湯を使わせてもらったので、朝からゆっくりと風呂につかることができた。
そのまま世話を焼いてくれるレンジャーの少女に従い、食堂へと向かう。ウカノに少女はネカネと名乗り、最低限の説明と安堵をくれた。いや、後者に関しては必要以上に優しく思えた気がする。
そんなネカネの言葉は、ウカノの生まれた山奥の集落と同じ公用語だった。
「とりあえず、朝ごはんにしよっか。ウカノ、食べれないものとかある?」
「あっ、わたしは大丈夫です。な、なんでも食べますっ!」
「ん、いいお返事。おなか減ったでしょ。昨日の今日だもんね」
昨夜はあのあと、大変だった。
懐かしい故郷への帰還、それは全く見知らぬ土地だった。そして、目の前には死が迫っていた。冒険者たちがいてくれなかったら、そこで自分の命は尽きていただろう。
そして、命よりも大事な人も
思い出せば、今でも身震いが込み上げる。
奇蹟的な勝利で冒険者と共に勝ち残り、今はこうしてなんとか生きている。
食堂につくと、ふわりといい匂いが
そして、大きなテーブルで見知った顔が振り返る。
「ヒロ、おはようございます」
「ウカノ……お、おはよう、ございます」
ここは今、ヒロの生まれ育った国の言葉だ。日本語といって、東洋の小さな島国の言語である。
しかし、その短いやり取りに反応する者がいた。
彼女はヒロの向かいに座って、しきりにメモを取っている。
「今のは朝の挨拶だね? ふむ……やはりトミン族の言葉と一部が似てるんだよねえ」
そして、ウカノにも座るように促す。
ネカネは四人分の朝食を取りにと、厨房のカウンターへ行ってしまった。
おずおずと腰を落ち着けると、ヒロが声を
「お互い無事でよかったよ、ウカノ。なにか変なことされてない? ここの人たち、みんな好意的ではあるらしいけど」
「だ、大丈夫です。あの……やっぱりここ、わたしの世界かもしれません。どうもはっきりしないですけど」
そう、故郷と地続きだという予感はある。
だが、自分が
そんな戸惑いを、目の前の女性がフフフと笑って拾う。
「こらこら、聴こえてるぞー? ああ、私はマイカ。
その言葉に、思わずヒロが目を丸くした。
ウカノも、ヒロに連れられ歩いた大都市を思い出す。
「おや、
マイカはどうも、遺都シンジュクと呼ばれる土地から来たようだ。それはもしや、日本の首都東京にある、あの新宿だろうか? だとすれば、遺都とは?
それよりも、自然に話してて驚いたことがある。
「あれ? わたし今、どこの言葉で喋って」
「日本語とかいうのだったね。じゃあ、隣の彼にも伝えてくれるかな? まずはご飯にしよう」
丁度、ネカネが大きなトレーに四人分の朝食を持ってきてくれた。
ミルク
ざっくり
「私たちは冒険者、タービュランスっていうギルドのメンバーさ。で、昨日の初遭遇と、巻き込んだお詫びと……あとは、勇気ある行動に
マイカの話では、タービュランスおよび友好ギルドのストラトスフィアでは、二人の地位を保全し身の安全を保証してくれるとのことだ。
正直、ありがたい。
ウカノ自身は大丈夫だが、ヒロがこの世界で生きていくのはまだまだ難しい。もともと環境への適応は苦手な青年である。
「そういう訳で、うん。こんなとこかな……はい、これをヒロ君に進呈しよう」
マイカはメモ帳から紙片を切り取り、その
ウカノも覗き込めば、そこにはわかりやすく一覧表で常用語が明記されていた。片方は日本語……ではなく、先程のマイカが言ったトミン語だろう。だが、不思議とウカノにも少し読めるし、それはヒロも一緒のようだった。
簡単な会話なら、トミン語から逆引きして公用語が話せるかもしれない。
「あ、あのっ、ありがとうございます。ええと、ちょっと待てよ、今のをこっちの世界の言葉にすると……」

ヒロがたどたどしく礼を述べる。
その声に、今度はマイカが「ほほう」とニンマリ笑う。
なにかこう、ギラつくような好奇心と探求心を感じたが、ウカノは黙っていた。
「もう話せるのかい? そんな雑にざっくり作ったリストで」
「あ、えと、話せる、大丈夫、です。本当に、助力もらいました、感謝です」
「うんうん、それくらい話せれば、次は読み書きだね。ま、異世界旅行のレクリエーションだと思って、帰るまで私の元で勉強するといい」
――異世界。
そう、ここはヒロにとって自分の居場所とは異なる世界だ。
いつかは帰れるかもしれないが、その予定は未定だし、手段の手掛かりすらない。
それでも、ウカノはマイカたちを信用し始めていた。
それは、どこかヒロと同じ匂いがするからかもしれない。
ならば、厚意に甘えてばかりもいられなかった。
「あ、あのっ! わたし、働きます! 冒険者として、お手伝いさせてください!」
ウカノの決意に驚き立ち上がるヒロが、突然のことで日本語を口走る。
でも、そんなヒロの手を握って、安心させるようにウカノは言葉を選んだ。
「私の生まれ育った土地では、恩を返すのは当たり前……わたしになにができるかはわかりませんが、なんでもやらせてほしいんです。が、頑張りますっ!」
マイカもネカネも驚きに顔を見合わせ、そしてそろって背後を振り向く。
そこには、朝食後のお茶をズズズとすする壮年のウロビトが佇んでいた。
「と、言ってるけど? おいちゃん的にはどーう? どうよー? 私はまあ、条件付きで賛成」
「ウカノは無理せずいてくれていいんだけど、一緒に仕事した方が気が晴れるかも」
賢者のような、隠者のような、不思議な男だった。そして、ウカノは思い出す……あの時、自分たちを守って戦ってくれた一人だ。
カラブローネと呼ばれた男は、フムと納得の溜息を零してから立ち上がる。
「まあ、ウロビトとしてはイクサビトの言葉を
こうしてウカノは、タービュレンス所属の冒険者として生きることになった。