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 新進気鋭のギルド『ターヴュランス』は、流れに乗っていい調子だった。共同戦線を張るギルド『ストラトスフィア』との連携もあって、迷宮の探索は順調である。また、双方に特異で尖った人材が多数いたため、その交流が互いの1を10にも100にも膨らませる。
 ただまあ、その中心にいるジルベルトは、さしたる実感も評判も気にしていなかった。
 今日、今、この瞬間までは。

「セレマン、追い打ちを任せます。致命打はその角度で、最高速度のフルパワーで」
「コピー。ユーティスの設置したマーカーをなぞります。――そこっ」

 剣を構えたジルベルトは、自分が介在する余地のない戦いを目の当たりにする。せいぜい、万が一に備えてアイテムのメディカ等を準備するだけだった。
 今日は二つのギルドで協力作戦、未知なる『原始ノ大密林(ゲンシノダイミツリン)』への探索だった。
 だが、未知なる迷宮(ダンジョン)への挑戦はそこまで緊迫感と危険を求めてこない。
 それというのも、同行する仲間たちの人間離れした強さが原因だった。
 人間ではないのだから、しょうがないのかもしれない。

投刃(とうじん)、設置完了……目標の移動位置に投射、命中しました」
「素晴らしい働きです、ユーティス。では……トドメはわたくしが」
「目標に微細な藻掻(もが)き、最後の足掻(あが)きが見られます。お気をつけを」
「問題ありません。既にユーティスの投刃で戦力は皆無ですので……いざっ」


 トンチキメイドの二刀流が、巨大な鳥の首を()ねる。
 そう、この凄腕のナイトシーカーが、普段は宿屋でボンクラめいたメイドとして働いているのを忘れさせる一撃だった。
 短剣を逆手に握って二刀流のユーティスと違って、セレマンは雌雄一対の長剣を使う。しかもそれが、重さと長さを感じさせぬ速さで標的を切り刻むのだ。
 実際見ていて、ジルベルトは驚きを隠せない。
 ユーティスの説明によれば、それぞれに目的と用途が違うからだという。
 セレマンは、要人警護で盾になりつつ敵を一撃必殺、そうでなければ徹底して護衛対象を守るための耐久力をある程度持たされているという。
 だが、絶対零度の美貌が舞い踊る一撃は、凍れる死を強敵に強いる。

「状況終了。……皆様、お怪我はありませんか?」

 ジャンアントモアと呼ばれる巨大な怪鳥を仕留めて、息一つ乱さずセレマンがふりかえる。圧倒的な戦闘能力は、同じく人知を逸したユーティスのそれと全く同じだった。
 ユーティスとセレマンには、人間が持つ弱さや不利が感じられない。
 むしろ、人間が持って生まれた惰弱性を相殺するような力に満ちていた。
 その代わり、二人の感受性と情緒は微妙である。
 でも、ジルベルトにはユーティスの細やかな感情、微差な感動の機微が感じられた。
 それは、セレマンを先祖代々のメイドとして寄り添うアルサスも同じようだった。

「セレマン! 怪我はなかった? ユーティスさんも。もう、二人共突出し過ぎだよ」
「申し訳ありません、お坊っちゃま。ジャイアントモアは強敵ですので」
「セレマンに同意です。機動力に長ける二人で押し込む戦術は成功でした」

 まあ、ユーティスの言う通りではある。
 ただ、アルサスが言う通りで少しジルベルトもやきもきした。当然、トドメのドライブを用意して身構えていたリベルタも同様だろう。彼女は高鳴るモーター音の砲剣を、なんだかしおしおにがっかりした表情で戦闘状態解除してゆく。
 ジルベルトも、剣を抜いて盾を構えていたが、全く出番がなかった。

「……えっと、なんだろ。ユーティスもそうだけどセレマンさんって」
「ジル、あれだよ……類は友を呼ぶ。アタシたちの出番、まるっきりないじゃん?」
「だね。あと、改めて見たけど、ユーティスって」
「だよねー、あんな動きができる冒険者ってちょっといないよ。ねー、あねさまー?」
「ひあっ、ちょ、ちょっとぉ、やめてよ。もう!」
「みんなの前ではジルって読んでるけどさ。あの、あねさまっての……良くね? エモくね? やばみすごいじゃん! ……多分、ユーティスにも心情や心境があるんだよ」

 そう、いつからかユーティスは時々、ジルベルトのことを『あねさま』と呼ぶ。普段はいつも通りで、複数の仲間と冒険をしている時はそうではない。ただ、二人きりの時は彼はジルベルトをそう呼んだ。
 彼は一人では眠れない。
 太古の記憶が蘇り、異常な発作を起こすのだ。
 それを癒やすために、毎晩ジルベルトがユーティスと手を繋いで眠る。
 その関係はいつしか、ユーティスにジルベルトを姉のように慕う気持ちを育んでいた。

「あのさ、リベルタ……めっちゃ楽しんでるでしょ? 面白がってるでしょ!」
「いやまぁ……エモいですがなにか? わはは、ジルにも激重設定がきてるよこれ!」
「……嬉しくないんだけど」
「でも、嫌じゃないっしょ」
「それは……」
「アタシもちゃかすだけじゃなく、相談乗るからさ。とりま、あっちの彼の方が重傷じゃない?」

 リベルタが指差す先では、プリンスの少年があたふたとうろたえていた。
 ジルベルトと同じく、片田舎(かたいなか)辺境伯(へんきょうはく)、小さな貴族の息子だ。ちょっと年下で、いかにも良家の御曹司(おんぞうし)という雰囲気が拭えきれない。そのアルサスが、あわあわと慌てて驚いた様子でセレマンとユーティスに駆け寄っていた。

「セッ、セレマン! 今のは危なかったよ。それにユーティスさんにも危険が!」
「お坊っちゃま、先程の戦闘は擬似的な並列演算で処理したものですので」
「互いに動く範囲と距離、威力を共有していたので、問題ありません」

 二人のナイトシーカーが、なにごともなかったように駆逐した魔物から戦利品を剥ぎ取りはじめる。その様子を見て、アルサスはただただ目を丸めて呆然(ぼうぜん)とするだけだった。
 ジルベルトもそうだし、リベルタもそうした、当然アルサスも一緒だった。
 援護のために最善の手順を踏んで、最悪の事態に対処すべく身構えていた。
 だが、不思議と似た者同士の二人が織りなす連携は完璧過ぎたのだ。
 残念ながら、迷宮を徘徊する巨鳥は二人だけの波状攻撃でほぼほぼ完璧に駆除された。
 だが、意外な事件はそのあとに起こった。

「素材の回収、完了です」
「こちらの処理も完了しました」

 魔物の解体すらも、手際が良すぎて無駄がない。
 そんな二人の向こうから、大きな人影がやってきた。よく見れば城の衛兵で、この階層を探索しているらしい。
 彼もこっちに気付いて、ガシャガシャと甲冑(かっちゅう)を鳴らして駆けてくる。

「お前たち、冒険者だな? 小さな女の子を見なかったか?」

 聞けば、年の頃は十代前半ほどで、褐色の肌に黒髪の少女らしい。
 どうやら一人で迷宮に迷い込み、そのまま行方不明になっているという。
 (すで)に探索司令部でも緊急のミッションが発令されているらしく、一度戻るように衛兵は促してきた。同時に、妙なぼやきを零して煙草(たばこ)を取り出す。

「まったく、エトリアの出だからと無茶をして……レオに出くわさなきゃいいんだが」
「エトリアの子なんだ。あ、レオってあのソロのリーパーのですか?」

 ジルベルトの言葉に神妙に頷き、衛兵は火を付けた煙草の紫煙(しえん)(くゆ)らす。

「ああ、あのレオだ。奴は……死神さ」
「死神?」
「危険な男らしい。関わらないに越したことはないぜ。そもそも奴は――」

 その時だった。
 突如ビクリ! と震えたユーティスが身構える。
 それは、全く同じ反応速度でセレマンが剣を抜くのと同時。
 そして、空気が突然の激震に沸騰する。
 絶叫。
 咆哮。
 まるで慟哭(どうこく)にも似た獣の叫びが迷宮を震わせた。
 思わず衛兵も固まり、手にした煙草だけが燃え尽きて灰になってゆく。ジルベルトもリベルタも、勿論(もちろん)アルサスも全く身動きができなかった。
 全身が本能で危機を察して、呼吸が浅く早くなってゆく。
 結局、衛兵を含めて全員でこの場を立ち去り、一度探索司令部へ向かうことになるのだった。

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