不気味な
それは笑い狂っているようにも、
どっちにしろ、トゥリフィリにとって身の毛もよだつような
ナガミツとキリコは互いの背を守り合うように身構えている。
トゥリフィリも拳銃のマガジンを交換しながら、
『ワレは、ニアラ……
「家畜……ぼくたちが?」
『いかにも。あるいはそれ以下、ただ日を浴びて揺れる、
「
トゥリフィリの声に、声は
気付けばトゥリフィリは、自分が震えているのに気付いた。自分の意志と関係なく、鍛え抜かれた身体が無意識に震える。それはまるで、本能的な恐怖を遺伝子が覚えているかのようだ。
そう、声の主は……真竜ニアラは、強い。
そして、その力はこれから人類に向けられるのだ。
だが、
「ニアラだあ? どっから話してんだ、面ぁ見せろ!」
「その物言い、決して許せない!」
「おう、キリ……もういっちょ、いけるか?」
「当然だ、ナガミツ!」
見えぬニアラに対して、二人は拳と剣を構えた。
トゥリフィリにもはっきりとわかる……ニアラは決して許してはいけない存在だ。それなのに、先程から震えが止まらない。
一度目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。
心を落ち着かせて、自分に平静を呼びかける。
そうして、どうにかトゥリフィリは二人の横に並んだ。
背中をなにかが、押してくれた気がした……だから、まだ戦える。
「あ、そっか……キリちゃん」
「ん? どしたの、トゥリねえ」
「これ、タケハヤさんから預かってたんだった」
トゥリフィリはずっと、背負っていた一振りの剣を下ろす。
それは、あのタケハヤがずっと愛用していた剣だ。言うなれば、
そして、星空から見下してくる声が息を呑む気配が伝わった。
『……ほう? まだそのようなものを……クァハ! クハハハハハ!』
そう、その剣は竜より生まれた、竜を滅する刃。
それをトゥリフィリは、ようやく
「これは……トゥリねえ!」
「タケハヤさんは、これをぼくたちに託した。その代表として、キリちゃんにって」
「
ポン、とキリコの頭をナガミツが撫でた。
彼はなにも言わなかったが、ただ黙って上を……天の彼方を
――天叢雲剣。
それは、
その威力を知るからか、ニアラからは先程の
『……良かろう、ニンゲンよ。その剣を放ってはおけぬ……ワレの元へとくるがよい。最後の希望を摘み取り、家畜としての敗北を刻み込んでやろう。クァハハハハハ!』
声の気配が消えた。
同時に、天から光が舞い降りる。
まるで、宇宙へと続くエレベーターのようだ。
トゥリフィリはナガミツとキリコに
ここには、絶望はない。
だからトゥリフィリも改めて誓う。
絶望なんか、してやらない。
その気持ちが伝わったのか、顔を上げたカジカがへらりと笑う。
「いくかい? シロツメクサちゃん」
「うん」
「そっかー、うんうん。あとのことはオジサンたちに任せなさーい」
「うん」
「なんか、えらいやばっちいのが出てきたけどねえ? でも、オジサン信じてるよ。君たちは強い子で、強いだけの子じゃない。ササッと人類、救っちゃってよねん」
「……うんっ!」
意を決して、トゥリフィリは
今はもう、怖くない。
震えも止まった。
「行こう、ナガミツちゃん! キリちゃん!
光に触れた瞬間、身体が軽くなった。
まるで、全身が細胞レベルまで分解されるような感覚。それはあっというまに、見たこともない空間へとトゥリフィリを運んだ。
どうやら一種のワープのようだ。
そして、目の前に異様な雰囲気の
それは、宇宙の
「へっ、ここはニアラとかってのの住処かよ。いい趣味してるぜ、ったく」
「二人共気をつけて……霊的にも物質的にも、極めて不安定な場所みたい。なんか、肌がピリピリする」
「お? 巫女の直感ってやつか?」
「ん、そういう感じ」
確かに、酷く落ち着かない。
空気はあるし、暑くも寒くもない場所だ。
そう、ここには主張がなく、特色や
ただ、唯一トゥリフィリたち三人に向けられているものがった。
それは、今まで感じたこともないようなマモノの気配……殺気だ。
「うし、じゃあ進むか! ……派手に歓迎してくれるみたいだしな」
バキバキと拳を鳴らして、ナガミツが前に出た。
そのあとを、小さなキリコが続く。その手には、天叢雲剣がしっかりと握られていた。まるでそう、本来の持ち主を得たかのように剣はリンと鳴っている。
そして、耳をつんざく絶叫が襲ってきた。
大挙してマモノが押し寄せる。
「よしっ、行こう! ニアラとかっての、やっつけちゃおうよ」
トゥリフィリは自分にもそう言い聞かせて、拳銃の
既に消耗は激しく、体力も精神力も現界に近付いていた。
だが、たとえ限界を超えてでも倒さなければいけない……ニアラに対して、今はそう感じる。そして、その想いをこの三人は共有しているのだ。
押し寄せるマモノの群へ向かって、トゥリフィリは仲間たちと共に飛び込んでゆくのだった。