鳥や虫でさえだまり、逃げ散る様子すら見せない。
息を殺して通過を待つ、まるで災害のような死が近付いてくる。
真っ赤に燃える

「ジル! この人をお願いです。ここがわたしが……みんなは逃げるですっ!」
もうすでに、
徐々にその身体が冷たく重くなってゆく。
直面する死を前に、ジルは身体が全く動かなかった。
それでも、必死に言葉を絞り出す。
「だ、駄目だよ、まひろ。まひろも一緒に……それに、この人、もう」
「わたしは大丈夫なのですっ! 亡くなってても、その死を守ってあげたいのです。家族のもとに返してあげるですっ!」
「で、でも」
まひろはそのまま、恐るべき巨獣へと向かっていった。
闘争の空気に飲み込まれた森の中で、ジルベルトはただただ震えて立ち尽くすしかなかった。これが本当の戦い……
だが、ジルベルトは一人ではなかった。
「ジルッ! その人はアタシが。しっかしなんだあれ! 殺す気か! メチャヤバじゃん」
「リベルタ……」
「まひろにさ、言ってやりたいことがあるんでしょ? わはは、背中は任せろってー」
死体をそっと受け取るリベルタも、震えていた。
もはや帝国騎士のお嬢様を演じる余裕すらないのだ。
それでも、冷たい死体と違って、鎧越しにもリベルタの手は温かい。
その熱に触れたら、少しだけジルベルトの中に勇気が込み上げてきた。
「うん……うんっ! ちょっと行ってくる。ユーティス、援護をお願いっ!」
「
脚が動く。
手も指も動くから、剣を抜いて盾を構える。
なるほど
まひろの剣には、
持て余すほどの身体能力で、本能のままに戦っているのである。
だから、わからない……わかれないのだ。
この戦いにまひろは勝てないということを。
そして、勝てないまでも英雄的な死を遂げればいいとされていることを。
「まひろっ! 駄目!
無数の残像が幻影となって舞う。
その中で、本物のまひろへと素早くジルベルトは駆けつけた。
丁度まひろは、振り下ろされた
同時に、少し怯んだ魔物へユーティスの
「ジル、危ないです」
「もう、どっちが!」
「だってだって、わたしは――」
ぺち、と小さくジルベルトはまひろの
ぺちぺちと叩いてから、頭を撫でる。
「いい、まひろ? まひろが生き残る方が、結果的に沢山の人が助かるの。まひろはだって、生きてる限り大勢の人を救えるんだから」
「……わたしが、まず、生きるですか?」
「そうだよ。死に様で英雄になるより、みっともなくても格好悪くても……生き方を探そうよ」
小さく頷くまひろを連れて下がる。
その時になって、ジルベルトはようやく気付いた。
荒れて波打つ地震のような大地に、光の
それに、恐るべき剛腕にも先程のようなキレがない。
「ヴァイン! 腕は封じた、そろそろずらかろうかねえ?」
「おうっ! ……まひろっ! 逃げるぞ! みんなで生きて帰るんだっ!」
大人たちが最初から、援護してくれていた。
それでも、あの魔物は僅かに衰えながらも大暴れを繰り返している。
もう、ジルベルトたちの戦線が決壊するのは時間の問題である。ここが潮時、そう思ってジルも走り出す。
なんだか納得したようなしないような、そんな雰囲気でまひろも続いた。
まひろの手を引き駆けながら、周囲の仲間の無事を確認するジルベルト。
「あれ、ユーティスがいない!? た、大変、ユーティスが」
「彼なら最後尾、
「リベルタ、怪我はない? 大丈夫?」
「んむー、平気! 実はアタシもブルっちゃってるけどね!」
一同、猛ダッシュで馳せる。
その背後に、荒れ狂う嵐の
ちらりと見れば、ユーティスが投刃で撤退を支援してくれていた。その
しかし、どうやら既に毒が利き難くなっているようだ。
麻痺や睡眠をもたらす毒は有効だが、対象が耐性を得てしまうのが難点である。
「ふむ、では……近接戦闘によって脚を殺し、撤退を支援します」
「待ってユーティス!」
「問題ありません」
「あるってば、もぉ! それじゃ、まひろと一緒だよ!」
その一言が意外に効いた。
ユーティスは即座に飛び退くや、あっという間にジルベルトの隣に帰ってくる。そして「失礼」と呟くや、ジルベルトとまひろを両脇に抱えて加速した。
自分で走るよりも遥かに速い。
まひろはなんだか放心状態で、もう暴れたりはしなかった。
しかし、方陣や投刃の毒から解放されて、いよいよ暴力の
そして、声が走った。
「あれは……
その先へと滑り込んで、ユーティスは奥の部屋へとジルベルトたちを放り込んだ。そしてそのまま、我が身を盾にするようにナイフを構える。
カラブローネはへばって大の字だし、予備の弾倉を取り出すヴァインの手も震えていた。
そして、リベルタが逃げ遅れて必死に走ってくる。
ちょっと、またしても乙女がしてはいけないような形相になっているが、なりふり構ってはいられないようで……それで彼女は、背負った死体を捨てようとしない。
「リベルタ! こっち! 急いで! ――あっ、お姉さん! 危ないっ!」
「帝国のインペリアルね。任せて、お友達は私が助けてみるからさっ!」
女性剣士が舞うように跳ぶ。あれだけの殺意を向けられているのに、全く動じず、怯えて竦む様子も見せない。
流麗にして可憐、そして鮮烈。
その剣は歌うように振るわれる。
そして、獣王ベルゼルケルと呼ばれる魔物が初めてのダメージに絶叫した。怒りに燃えるその